2020年5月28日号
インドネシア:新型コロナウイルスの影響まとめ(速報)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 福 井 信 雄
弁護士 中 村 洸 介
はじめに
緊急事態宣言の全面解除により、国内の経済活動は今後段階的に再開される見通しとなりましたが、政府・自治体からは引き続き感染拡大防止に向けた企業努力の継続が要請されており、国境を越えた移動については依然として厳しい制限が課されています。海外でも、欧米を中心に外出自粛等の対策措置の段階的緩和が開始される一方で、大型の倒産案件は増加傾向にあり、世界経済へのダメージの長期化・深刻化は避けられない見通しです。
本記事では速報ベースで各国の方針や影響拡大状況の概要につきお知らせ致します。なお、本記事は感染拡大が続く間、不定期に配信していきたいと思いますが、同感染症の拡大状況については日々状況が変化している中、本記事の内容がその後変更・更新されている可能性については十分ご留意の上参照ください。本記事の内容は、特段記載のない限り、日本時間2020年5月27日夜時点で判明している情報に基づいています。
全体概況 死亡者:1,418人、感染者数(累計):23,165人(5月26日現在) インドネシアでは、感染拡大が収束しないまま断食明けの大祭を迎え、この期間中の国内移動を制限する大臣令や州知事令により感染拡大防止に向けられた措置が実施されている。首都ジャカルタで4月10日以降実施されている大規模社会制限と呼ばれる職場等の閉鎖措置も6月4日まで延長されることとなった。滞在許可証を保有しない外国人の入国は依然一律に禁止されており、また滞在許可証を有する外国人については、入国の際に健康証明書の提示が求められる等の入国制限が継続している。 |
主な政府発表
- ・ 法務人権大臣令2020年第3号(2020年2月5日制定)に基づく中国人及び中国への渡航歴のある外国人へのビザ発給の一時停止
- ・ ジョコ・ウィドド大統領による、インドネシア初の国内感染事例に関する声明(3月2日)
- ・ ジョコ・ウィドド大統領による、新型コロナウイルス拡大防止に向けての声明(3月15日)
- ・ ジャカルタ特別州知事による非常事態宣言(3月20日)
- ・ 調整大臣が地域隔離に関する政令の公布を発表(3月27日)
- ・ ジャカルタ特別州知事が中央政府に対してジャカルタ特別州の都市封鎖の実施に関する要請書を提出(3月30日)
- ・ 外務大臣による外国人の入国全面禁止の発表(3月31日)
- ・ COVID-19に関連する大規模社会制限に関する大統領令(3月31日)
- ・ COVID-19に関連する大規模社会制限に関する保健大臣令(4月3日)
- ・ ジャカルタ特別州知事宛の大規模社会制限の発動を承認する保健大臣通達(4月7日)
- ・ COVID-19に関連する大規模社会制限の実施に関するジャカルタ特別州知事令(4月9日)
- ・ 新型コロナウイルス感染を国家災害に指定することを定めた大統領通達(4月13日)
- ・ 断食明け大祭期間中の移動制限に関する運輸大臣令(4月23日)
- ・ ジャカルタ特別州の大規模社会制限に違反した場合の制裁を定めたジャカルタ特別州知事令(4月30日)
- ・ ジャカルタ特別州の出入域を制限するジャカルタ特別州知事令(5月14日)
渡航情報
- ・ 4月2日以降、一時滞在許可証(KITAS)や長期滞在許可証(KITAP)を保有しない外国人に関しては、インドネシアへの入国と乗継ぎが禁止されている。
- ・ 滞在許可証を保有する外国人は引き続き入国は可能であるが、入国前14日間、感染が深刻化している国に滞在していないことと(現状日本は深刻化していない国として扱われている。)健康証明書の提出が求められる。当該健康証明書はインドネシアに到着する7日以内に取得されたもので、呼吸器感染症の症状がないことに加え、PCR検査の結果が陰性であることが記載されている必要がある。当該健康証明書を提出し入国した場合も、14日間の自主隔離が求められる。
- ・ 健康証明書にPCR検査の結果が陰性である旨の記載のない者に対しては、インドネシア到着時に迅速抗体検査を含む追加的健康検査を実施し、新型コロナウイルスに感染していない、又は感染に特有の症状がないと判断された場合に入国が認められる。仮に迅速抗体検査の結果が陽性であった場合、症状があれば新型コロナウイルス指定病院等へ移送、隔離され、また、陽性かつ症状がなければ本国へ送還される。
- ・ インドネシア国外滞在中に滞在許可証の有効期限が切れた場合の救済措置として、有効期限が切れても事前手続きなく再入国が可能となった。この場合の再入国は、スカルノ・ハッタ国際空港等、政府が指定する国際空港等でのみ可能である。
その他
- ・ インドネシア金融庁は、3月9日付けで「自社株買いが許容される市況への重大な変動を与えるその他の事由」に関する回状(Circular Letter)を発行し、今回の新型コロナウイルスの拡散が市況への重大な変動を与える事由に該当するとの解釈を明らかにした。インドネシアの上場会社に関しては、一定の市況への重大な変動を与える事由が生じた場合に、本来必要な株主総会の決議無しに一定限度の自社株買いを許容する金融庁規則が2013年に施行されているところ、今回の回状により、現在の状況下で同規則の適用を受けられることが明確化され、より機動的な自社株買いが可能であることが確認された。市場での株価の下落が著しい現状において、上場会社の資本政策の選択肢が広がる措置と評価できる。
- ・ インドネシア金融庁は、3月18日付けで新たな回状を発行し、上場会社による年次株主総会の開催期限を2か月延長して8月31日までに変更し、また計算書類等の提出期限も2か月延長した。さらに、4月20日付けで新たな規則を制定し、上場会社によるビデオ会議等を利用したオンラインでの株主総会の開催を認め、総会会場に出席しない株主は電子投票等によって議決権を行使することが可能となった。
- ・ 感染拡大防止の目的で、インドネシアへの投資を主管する投資調整庁の窓口が3月17日より3月末までサービスを一時停止することを発表した。この措置は4月以降も継続している。オンラインでの手続は引き続き可能である。
- ・ インドネシア事業競争監視委員会(KPPU)は、4月6日付けで電子的な案件管理に関するKPPU規則(2020年第1号)を制定し、企業結合届出の受付を含む業務を電子メールやビデオ会議システムを利用して行うことができるようになった。
- ・ ジャカルタ特別州は4月10日より、大規模社会制限と呼ばれる措置が実施されており、一部の必須のサービス(電気、ガス、水道、銀行、薬局、スーパーマーケット、物流、メディア、病院等)を除き、全ての職場及び学校が閉鎖されている。同時にスポーツ、娯楽及び宗教関連の行事も全て禁止されている。現時点では6月4日までこの措置は継続され、違反した場合には罰金等の制裁の対象となる。
- ・ ジャカルタ特別州のほか、西ジャワ州(現時点では感染状況に応じて5月29日まで)及び東ジャワ州のスラバヤ地域(現時点では6月8日まで)等でも、大規模社会制限が実施されている。
- ・ 断食明けの大祭期間中の帰省禁止措置に関連して、インドネシア運輸大臣令が発布され、4月24日から、大規模社会制限の対象地域等から出入域する陸上交通、鉄道交通、海上交通、航空交通の運行及び使用が原則禁止されている。但し、国際定期旅客便は対象外であり、また、帰国を目的とした国際旅客便の搭乗のために外国人がジャカルタ首都圏域外からスカルノ・ハッタ国際空港に移動することも規制対象外となっている。
- ・ さらに、ジャカルタ特別州では、同州知事令に基づき、新型コロナウイルス感染が国家災害と指定されている期間中、原則、外国人を含む全ての者による同州の出入域が制限されている。ジャカルタ首都圏域内の住民が同首都圏域内に出入域することは規制対象外となっているが、ジャカルタ特別州境界の検問所で首都圏の居住を示す身分証明書等の提示を求められる可能性がある。なお、首都圏域外居住者が、日本への帰国等でスカルノ・ハッタ国際空港に移動する際に、陸路でジャカルタ特別州の出入域を伴う場合は、同州政府発行の許可証を取得する必要があると考えられている。
(ふくい・のぶお)
2001年 東京大学法学部卒業。 2003年 弁護士登録(第一東京弁護士会)。 2009年 Duke University School of Law卒業(LL.M. )。 2009年~2010年 Haynes and Boone LLP(Dallas)勤務。
2010年~2013年10月 Widyawan & Partners(Jakarta)勤務。 2013年11月~長島・大野・常松法律事務所 シンガポール・オフィス勤務。 現在はシンガポールを拠点とし、インドネシアを中心とする東南アジア各国への日本企業の事業進出や現地企業の買収、既進出企業の現地でのオペレーションに伴う法務アドバイスを行っている。
(なかむら・こうすけ)
2012年に長島・大野・常松法律事務所に入所し、M&A案件を中心に国内外の企業法務全般に従事。2019年10月からインドネシア(ジャカルタ)を拠点に、日本企業によるインドネシアへの事業進出や資本投資、その他現地での企業活動全般についてアドバイスを行っている。
長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/
長島・大野・常松法律事務所は、約500名の弁護士が所属する日本有数の総合法律事務所です。企業法務におけるあらゆる分野のリーガルサービスをワンストップで提供し、国内案件及び国際案件の双方に豊富な経験と実績を有しています。
当事務所は、東京、ニューヨーク、シンガポール、バンコク、ホーチミン、ハノイ及び上海にオフィスを構えるほか、ジャカルタに現地デスクを設け、北京にも弁護士を派遣しています。また、東京オフィス内には、日本企業によるアジア地域への進出や業務展開を支援する「アジアプラクティスグループ(APG)」及び「中国プラクティスグループ(CPG)」が組織されています。当事務所は、国内外の拠点で執務する弁護士が緊密な連携を図り、更に現地の有力な法律事務所との提携及び協力関係も活かして、特定の国・地域に限定されない総合的なリーガルサービスを提供しています。
詳しくは、こちらをご覧ください。