SH4408 ベトナム:妻が出産する際の男性労働者の産休制度 井上皓子/Pay Thi Dung(2023/04/14)

そのほか労働法

ベトナム:妻が出産する際の男性労働者の産休制度

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 井 上 皓 子

ベトナム弁護士 Pay Thi Dung

 

 日本では、子どもの誕生直後に男性が休暇を取得することができる出生時育児休業(いわゆる男性版産休制度)が新設され、昨年10月1日に施行され、話題になっているが、ベトナムでは、男性従業員は妻が子供を出産したとき、社会保険法に定めるところにしたがって産休を取得することができるとされている(労働法第139条5項)。なお、この点は、2020年の労働法改正で労働法上明確にされたが、それ以前から社会保険法には規定があり、制度としては存在していた。以下に日本の制度と比較しながら、ベトナムにおける男性従業員の産休制度の概要を紹介する。

 

1 男性労働者の産休の日数・期間

(1)男性労働者の産休期間は、法令上は少なくとも5営業日とされている(社会保険法第34条2項a号)。また、以下の場合に5営業日を超える休暇を取ることができる(社会保険法第34条2項)。

  • 手術が必要な出産の場合、32週未満の胎児の出産:7営業日
  • 双子の出産:10 営業日。三つ子以上の出産の場合や3人目以降については、子ども1人につきさらに 3 営業日
  • 妻が双子以上で手術を受けなければならない場合:14 営業日

 男性労働者の産休期間は、妻の出産後の30日以内に取得を完了しなければならないとされており(社会保険法第34条2項)、女性労働者のように出産前の休業は認められていない。また、男性労働者が産休を取得する条件として、妻の出産のときに男性自身が社会保険料を納付していることとされている。社会保険料納付期間については特に規定されていないので、社会保険納付期間を問わず、出産時点で社会保険を納付している限り、産休を取得することができる。

 日本では、産後8週間以内に、最大4週間の休業が取得できるとされている。なお、女性の産休も、ベトナムは日本に比べて短く、6か月とされており、いずれもベトナムのほうが短いことになる。

(2)特殊な場合の産休として、妻が出産時や出産後に死亡した場合には、男性労働者は、夫婦の社会保険加入状況に応じ、以下のとおり産休を取得することができる(社会保険法第34条4項、通達第59/2015/TT-BLĐTBXH号第10条2項各号)。

  • 妻が出産後に死亡し、妻のみが社会保険に加入していた場合:妻が取得可能な産休期間の残りの日数
  • 妻が出産後に死亡し、双方が社会保険に加入していた場合:妻が取得可能な産休期間の残りの日数。この場合、男性労働者自身の産休を追加で取得することはできないが、すでに産休を取得済みの場合は、その日数を妻の産休期間から控除されない。
  • 妻が出産後に死亡し、妻のみが社会保険に加入していたが、妻が産休給付を受ける条件(出産前の12ヶ月間、原則6ヶ月以上社会保険料を納付していること)を満たしていない場合:子が満6か月になるまで
  • 妻が出産後死亡し又は育児ができない健康状態であると医師が診断した場合で、男性のみが社会保険に加入していた場合:子が満6か月になるまで

 なお、6 か月未満の子を養子縁組した場合も産休を取得することが可能であり、この場合、養親となる男性又は女性のいずれかが、子が満 6 か月になるまで出産休暇を取得することができます(社会保険法第 36 条)。

 

2 給 付

 ベトナムにおいては、以下の計算式に基づく給付金が社会保険から支給される(社会保険法第39条1項)。

休暇日数×(休暇の6ヶ月前の社会保険料の基礎賃金となる月給の平均額÷24)

 この計算式のうち、24という数字は、土曜日を労働日と数えるベトナムでは月内の平均所定労働日数となるため、基礎賃金という一定の上限はあるものの、休業前賃金の100%の給付を日割りで受給することができることになる。

 日本では、休業前給与の67%相当額の給付を受けることができるが、一定の上限があることはベトナムと同じである。

 

3 給付を受ける手続き

 給付は、社会保険機関から労働者に対して行われる。その手続きは使用者が行うが、労働者の協力も必要である。具体的には、男性労働者は職場に復帰してから45日以内に必要な書類(出生届等、社会保険法第101条4項を参照)を使用者に提出し(社会保険法第102条1項)、使用者は、労働者から書類を受領してから申請書類を作成し、社会保険機関に提出する(社会保険法102条2項)。この手続きは、女性労働者に対する給付の場合と同様である。

 なお、産休中の女性労働者と同様に、別途の合意がない限り、使用者は産休中の男性労働者に対して賃金を支払う必要はない(労働法168条2項)。

 これらについては、日本の場合と大きく変わらないと思われる。 

 

4 産休中の男性労働者の保護

 女性労働者の場合と同様、産休中の男性労働者に対しては、不利益な措置が禁止されている。具体的には、①使用者による一方的労働契約の解除の禁止(労働法第137条3項)、②懲戒処分の禁止(同条)、③復職後に休職前と同等以上の賃金及び権利・利益の保証、④産休前と同じポジションへの復職(ただし、産休中に産休前のポジションが無くなった場合は産休前のポジションと賃金額において同等のポジションへの配置)(労働法第140条)等です。

以 上

 

[/groups_member]

 

(いのうえ・あきこ)

2008年東京大学法学部卒業。2010年東京大学法科大学院修了。2011年弁護士登録(第一東京弁護士会)。2018~2020年、長島・大野・常松法律事務所ハノイ・オフィス勤務。日本における人事労務対応、紛争・不祥事対応、ベトナムにおける日本企業の事業進出・人事労務問題等への法的アドバイス、現地における企業活動に関する法務サポートを行っている。

 

(ズン・パイ)

2014年Hanoi Law University (L.L.B)及び名古屋大学日本法教育研究センター(ハノイ)卒業。2017年名古屋大学大学院法学研究科修了。2017年11月に長島・大野・常松法律事務所のハノイオフィスに勤務。

 

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

長島・大野・常松法律事務所は、約500名の弁護士が所属する日本有数の総合法律事務所です。企業法務におけるあらゆる分野のリーガルサービスをワンストップで提供し、国内案件及び国際案件の双方に豊富な経験と実績を有しています。

当事務所は、東京、ニューヨーク、シンガポール、バンコク、ホーチミン、ハノイ、ジャカルタ及び上海に拠点を構えています。また、東京オフィス内には、日本企業によるアジア地域への進出や業務展開を支援する「アジアプラクティスグループ(APG)」及び「中国プラクティスグループ(CPG)」が組織されています。当事務所は、国内外の拠点で執務する弁護士が緊密な連携を図り、更に現地の有力な法律事務所との提携及び協力関係も活かして、特定の国・地域に限定されない総合的なリーガルサービスを提供しています。

詳しくは、こちらをご覧ください。

タイトルとURLをコピーしました