チェックアンドバランスが機能するコーポレートガバナンス(8)
首都東京法律事務所
弁護士 饗 庭 靖 之
9 取締役会における業務執行の決定機能と、業務執行者への監督機能のバランス
(1) 取締役会において、業務執行の決定機能と、業務執行者への監督機能をどのようにバランスさせていくべきかについて、正解が見出されていないと考えられ、取締役会のあるべき姿に向けて国際的にも試行錯誤が繰り返されている途上にある。
(2) アメリカの株式会社は、取締役によって組織される取締役会が経営する。日常業務は最高経営責任者 (CEO)、最高執行責任者 (COO)その他の役員が取り仕切る。
アメリカでは、証券取引所規則により、上場会社の取締役の過半数が社外の独立取締役であることを要求され、取締役会が執行役の選任・解任を通じて監督する監督機関となっている。取締役会は、社外取締役が大半を占める委員会に実際の監督権限を委譲し、一方で強力な執行体制確立のため最高経営責任者(CEO)に執行権限を集中するガバナンスの仕組みが確立している。
そして、CEOが取締役会長 (Chairman of the Board of Directors) を兼任することは、経営者支配を防ぐ観点からは望ましくないとされているが、実際には多くの上場会社で取締役会長とCEOの兼任が見られる。CEOの選解任権を持つ取締役会の議長でなくなると、CEOの選任・解任をコントロールする権力を失うことから、この事態を受け入れられないCEOが多くいることを意味している。
(3) ヨーロッパの代表例としてドイツをみると、二層型取締役会を採用しており、取締役会の役割と権限が監査役会と執行役会の二つの機関に分けられ、人的にも監査役会構成員と執行役会構成員の兼任を禁じて、監査役会が執行役会を監督するという二層の取締役会の制度となっている。
監査役会の役割は会社の業務執行を監査し、執行役会に対して一般的業務について助言し、執行役会構成員を選任・解任する権限を有しているが、監査役会構成員に従業員の代表を含めることとされており、株主総会で選任される監査役会構成員とこれと同数の従業員代表の監査役会構成員で構成されている[1]。
(4) 以上のように、取締役会の執行役のメンバーと非執行のメンバーの双方によって構成される「単層構造」の取締役会を採用している国と、取締役会の非執行のメンバーによって構成される監査委員会と、執行役員だけで構成される経営委員会という別の主体に分掌させる「二層構造」の取締役会を採用している国が存在し、取締役会の構成も多様である。どの仕組みがベストなのかは言えないが、いずれの国の取締役会も、業務執行者への監督機能と経営判断を決定する経営機能の双方を持っている。
[1] イギリスは、コーポレートガバナンス・コードにより、従うか説明するかのルールにより、米国のモニタリング・モデルに追随した。イギリスでは経営責任者 (Chief Executive) と取締役会長は別人であること、取締役会の過半数は社外取締役 (Outside Director) であることが法律で義務付けられている。
フランスの株式会社では、株主総会で三分の二以上の決議により伝統的な単層型取締役会とドイツ式の二層型取締役会とのどちらかを選択できる。