◇SH2175◇ベトナム:【Q&A】強制社会保険に関する近時の変更・留意点(下) 澤山啓伍(2018/11/02)

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ベトナム:【Q&A】強制社会保険に関する近時の変更・留意点(下)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 澤 山 啓 伍

 

 本稿は、前稿につづき、以下の質問に対する回答形式で社会保険制度に関する最近の留意すべき変更点を解説している。

  1. Q. 2014年11月に公布された社会保険法のうち、一部の規定が2018年1月から施行され、社会保険の対象となる労働者の範囲、及びその保険料の計算方法に関して変更が必要になったと聞きましたが、本当でしょうか。その他、社会保険制度に関して最近の留意すべき変更点はあるでしょうか?

 

1. 社会保険の対象となる労働者の範囲の変更

 2018年1月から、強制社会保険の対象となる労働者の範囲が以下のように拡大されています(社会保険法第2条)。

2017年までの範囲 3ヵ月以上の有期の労働契約を締結した労働者 無期限の労働契約を締結した労働者
2018年1月以降の範囲 1ヵ月以上の有期の労働契約を締結した労働者 無期限の労働契約を締結した労働者

 

2. 保険料の上限額の変更

 各種報道でもあったように、2018年5月15日付政府政令第72/2018/ND-CP号第3条第2項により、2018年7月1日から公務員に対して適用される最低賃金(基礎基本給:Mức lương cơ sở)が、それまでのVND1,300,000から9万ドン増額され、VND1,390,000となりました。

 この基礎基本給は、公務員に適用される最低賃金で、民間企業の労働者の給料を決定するに当たって考慮する必要があるものではありません。民間企業の労働者に適用される最低賃金(Lương tối thiểu)については、毎年、別の政令で地域毎に定められており、現状最も低い第4地域の最低賃金でもVND 2,760,000 と、上記基礎基本給の2倍近い金額になっています。

 ただし、公務員に適用される基礎基本給は、民間企業の労働者に適用される社会保険料の上限を画するという意味において、民間企業にも影響を及ぼします。

 すなわち、民間企業の労働者の月給が基礎基本給の20倍を超える場合、社会保険料を計算するための月給は、基礎基本給の20倍となることになっています(社会保険法第89条第3項)。

 したがって、2018年7月1日前後での社会保険料の上限は以下のようになっています。

  基礎基本給 社会保険料の計算における「月給」の最大値(基礎基本給の20倍) 社会保険料(労使負担分の合計)の上限額(「月給」の最大額の25%)
2018年6月30日以前 VND1,300,000 VND26,000,000 VND6,500,000
2018年7月1日以降 VND1,390,000 VND27,800,000 VND6,950,000

 

3. 社会保険の未加入に対する刑事罰の新設

 強制保険である社会保険料の不払・遅滞に対しては、使用者に対して、その不払・遅滞の金額の12~20%、最大VND150,000,000の過料が課されることになっています(政令95/2013/ND-CP第26条第2項、第3項)。

 これに加えて、社会保険料の不払いについては、2018年1月から施行されている新刑法では、刑事罰の対象にもなっています(刑法第216条)。すなわち、労働者の社会保険料を納付する義務を有する法人が、偽計又は他の方法で、法律の規定に違反してVND50,000,000以上の保険料、又は10名以上の労働者の保険料を、6ヵ月以上納付しない場合であって、過料の制裁を受けたにも関わらず、引き続き違反を行ったときには、その社会保険料の不払・遅滞の金額、及び人数に応じて、VND200,000,000 ~ 3,000,000,000 の罰金が課されることになっています。

 

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