◇SH1956◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(86)―スポーツ組織のコンプライアンス④ 岩倉秀雄(2018/07/10)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(86)

―スポーツ組織のコンプライアンス④―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、一般のビジネス組織のコンプライアンスを参考に、スポーツ組織の改善の方向について述べた。

 スポーツ庁等監督官庁は、スポーツの振興だけではなく、スポーツ組織はリスクを発生させやすいことを踏まえ、組織運営に対する管理・監督にも注力するべきである。

 スポーツ組織は、ビジネス組織と同様に、競技を進めるためのルールだけではなく、その根幹となる理念・ビジョン・行動規範を明確化して周知徹底するとともに、全国レベル、地方レベルに、コンプライアンス担当役員と担当部署を整備するべきである。

 今回は、前回に続いて、スポーツ組織の改善の方向を考察する。

 

【スポーツ組織のコンプライアンス③:スポーツ組織の改善の方向2】

 スポーツ組織は、これまで考察したように、一般の営利組織よりも、プロ・アマを問わず、社会的影響が大きく公益的性格が強いスポーツを統括しているにもかかわらず、独特の組織文化を持ち不祥事を発生させやすいので、コンプライアンス(倫理、法令順守)に注力し、社会的支持を失わないようにしなければならない。

 スポーツ組織の特徴を、組織間関係の視点から、再度考察すれば、中央の統括団体と地方組織の関係は、(会費により運営されていることから)経済的には独立しているが、(選手・役員・指導者の選考等で)人的結びつきが強い、ややタイトな組織間関係を持つ組織連合体である。

 このような組織は、中核組織と地方組織間で、相互にパワーを行使しやすく、親子会社間のように(法的に)明確なパワー関係がある企業グループに比べて、組織間調整の仕組みがあいまいで、人的関係に左右されやすいので、コンフリクトが顕在化しやすい。

 それらを踏まえて、スポーツ組織のコンプライアンスを考察すると、取組みの方向としては、

  1. ① コンフリクトの原因をいち早く発見し、顕在化する前に消去する。
  2. ② 調整の仕組み(統制力)を強化して、コンフリクトが発生してもその顕在化を防ぐ。

という、2つの方向が考えられる[1]

 今回は、前回に引き続いて、一般のビジネス組織の取組みを参考に、スポーツ組織の改善の方向を、更に考察する。

(3) コンプライアンスアンケートの実施による、リスクの早期発見と対策の実施

 これまでの不祥事対応を見ると、スポーツ組織では問題が顕在化した時だけアンケートを取ることが多いが、定期的に理念・ビジョン・行動規範・ルールの整備・浸透状況、人権侵害の有無、金銭管理の状況等をアンケート(可能なら指示・命令)により把握し、リスクの早期発見に努め、問題を把握した場合には、放置せず直ちに解決に動く必要がある。

 なお、アンケートは単に現状を知り時系列的に変化を追うものであってはならない。

 無記名による回答にしたとしても、どの場所で問題が発生したかを把握し、発生場所の責任者と協議・連携して、直ちに手を打つことができるようにするべきである。

 発生場所の責任者に問題がある場合には、発生場所からアンケート結果がスムーズに上がってくることは難しいので、未開封・無記名のアンケートを地方組織ごとにまとめて、中央組織の担当部署に集約するようにする必要がある。

 進め方は、一般のビジネス組織と同様に、集約結果を組織ごとにまとめ、全体平均と比較し、(自由記入欄も含めて)問題を発見した場合には、改善を促す(必要によりともに改善を図る)必要がある。

 なお、スポーツ組織では、強くなるためには厳しい指導は当然だとして、人権侵害や暴力を肯定しやすいので、何が、何故問題なのかを平時の教育研修で徹底する(後述する)とともに、アンケートの説明や分析時にも、アンケート回答者や地方組織の役員・指導者等に納得いくまで説明する必要がある。

(4) 相談窓口

 相談窓口の設置は、一般のビジネス組織でも組織が自浄作用を働かせる上で極めて重要なツールだが、スポーツ組織がコンプライアンス違反を発生させやすくかつ隠蔽に傾きやすいことを踏まえると、特に重要である。

 これを効果的に運用するためには、相談対象者への周知徹底と相談窓口の信用獲得、相談者・調査協力者に対する不利益扱いの禁止と秘密厳守は基本である。

 また、これまで考察したように組織とステークホルダー(役員、指導者、選手、大会開催・運営関係者、広告代理店、メディア、イベント会社、スポーツ用品の製造・販売業者等)との間にはパワー(影響力)関係が発生しやすく、組織の混乱を招きやすいことを踏まえ、できるだけ受付範囲を広くするとともに、スポーツ組織だけではなくその監督官庁にも相談窓口の設置が必要である。

 相談窓口が信頼されるためには、担当者に経験のある専門家を配置するとともに、公正な運営ルールの設定と周知・徹底、相談を放置せずに直ちに調査・対応すること等が必要である。

 なお、日本レスリング協会のパワーハラスメント問題や日大アメリカンフットボール部の悪質タックル問題、日本相撲協会の暴力事件のケースのように、競技団体幹部に問題がある場合や、相談窓口が信用できない場合等に備えて、監督官庁にも相談窓口の設置が必要だが、相談者がそれだけでは安心できない場合には、組織の自浄作用が機能せず、メディアや警察に対応を求めることになる。

 

 次回も、引き続きスポーツ組織の改善の方向を考察する。



[1] 前回検討した理念・ビジョン・行動規範の浸透は①の方向であり、コンプライアンス体制の整備は、それを実行するための必須の仕組みである。

 

 

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