◇SH2063◇インハウスと外部弁護士① GEジャパンGeneral Counsel(大島葉子)に聞くキャリア 西田 章(2018/09/03)

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インハウスと外部弁護士①
GEジャパンGeneral Counsel(大島葉子)に聞くキャリア

GEジャパン General Counsel
弁護士 大 島 葉 子

Vanguard Lawyers Tokyo
弁護士 山 川 亜紀子

(司会)西 田   章

 

 ジャック・ウェルチがCEOの時代にGEのGeneral Counsel(以下、主に「GC」という)を務められたベン・W・ハイネマン氏の著書『THE INSIDE COUNSEL REVOLUTION: Resolving the Partner – Guardian Tension』について、経営法友会の会員有志を含む「企業法務革命翻訳プロジェクト」のメンバーによる日本語版『企業法務革命―—ジェネラル・カウンセルの挑戦』が出版されました。これを機に、日本でも、インハウス、特に、「General Counsel」(同書3頁では「弁護士資格を有する役員または役員相当クラスの企業法務責任者」と注釈されています。)の役割についての議論が活発化し始めています。

 キャリア・コンサルティングの仕事をしていると、若手弁護士から「将来は、一流企業のGCになりたい」という目標を聞くことが増えてきました。しかし、日本での実例は少なく、「一体、どういうキャリアを歩めば、GCになれるのか?」のイメージを抱きにくいことも事実です。

 そこで、GCのキャリアモデルの一つとして、今回のインタビューでは、GEジャパンのGCである大島葉子弁護士(修習51期)に、そのご経歴をお伺いすると共に、インハウスに求められる資質についての私見をお尋ねしました。また、外部弁護士に求められる経験や資質との違いを理解するために、インタビューには、大島弁護士と、司法修習でもハーバードLL.M.でも同期だった、山川亜紀子弁護士に同席していただき、そのご経歴と共に、法律事務所における採用ニーズについてもお伺いしてきました。

(山川弁護士は、英国系大手法律事務所(いわゆるマジック・サークル)のパートナーまで務められた後に、昨年、独立された訴訟(労働)弁護士です。略歴については、Vanguard Lawyers TokyoのHP(http://www.vl-tokyo.co.jp/akiko-yamakawa/)をご参照下さい。)

 以下、4回にわたり、その内容をご紹介させていただきます(2018年6月14日開催)。

 

 本日は、GEジャパンのGeneral Counselである大島葉子弁護士(51期)と、Vanguard Tokyo法律事務所の山川亜紀子弁護士(51期)を迎えて、社内と社外の弁護士に求められる資質や経験の違いを考えてみたいと思います。
 進め方としては、まず、大島さんの職歴を教えていただき、次に、山川さんの職歴を教えていただき、三番目に、大島さんが所属されるGEを念頭に置きながら、インハウスカウンセルに求められる資質や経験をお伺いし、四番目に、山川さんに、外部弁護士に求められる資質や経験をお伺いしたいと思います。
 それでは、まず、大島さんの略歴を教えていただけますか。
 司法修習(51期)を終えた後に、1999年4月から、アンダーソン・毛利法律事務所に入所し、アソシエイトとして勤務しました。4年目(2003年)の秋から、米国のロースクール(ハーバードロースクールのLL.M.)に留学し、翌年から、Cleary GottliebのNYオフィスで働きました。
 Clearyでのポストは、日本の所属事務所からの出向という形なのでしょうか。それとも、大島さんがご自身で見つけられたものですか。
 1年目は、アンダーソン・毛利の事務所に籍を置いたままの出向でしたが、2年目にClearyに移籍しました。ただClearyのポスト自体は、私が個人的にコンタクトをとって働かせてもらうことになりました。
 日本人でありながら、NYの一流ローファームで米国法弁護士として仕事を務めておられた、というのは、ドメスティックな弁護士からすれば、憧れてしまいます。そして、ClearyからGEに転職されたのですか。
 ご縁に恵まれました。Clearyで勤務した4年目の2006年末に、GEの日本でのポストに転職して帰国しました。GEは今年で12年目になります。
 「ローファームのNYオフィス」から「グローバル企業の東京オフィス」に転職されたのですね。米国から日本に戻るという方向の中でのキャリア選択だったのでしょうか。
 NYでは面白い仕事をさせてもらえたと思っています。M&Aやファイナンスは、日本でも担当していた業務分野ではありましたが、ファンド組成やリストラクチャリングなどに携わる機会にも恵まれ、プラクティスとしてはNYのほうが進んでいる面もあり、知的好奇心が満たされる仕事でした。
 とすれば、転職は、日本に戻ることよりも、生活スタイルを変えたい、ということがきっかけになったのでしょうか。
 ワークライフバランスを考えたら、「最先端のプライベート・プラクティスを一生続けて行きたいか?」というと、自信を持てませんでした。またこのままNYロイヤーとして続けていたら、日本で社会人として機能しなくなるのではという不安も出てきました。NYでの仕事自体は面白かったので、将来的には、再び米国に戻ることも考えて、米国とのつながりが深い会社でのインハウスのポストに漠然とした興味を持つようになりました。
 日本に戻って転職活動をされたわけではないのですね。
 はい、NYで、リクルータからお声がけいただき、GEの方とカジュアルにお会いしていくうちに、GEで働くことに対する興味が高まり、また、会社からもオファーをいただけたので、転職を決意しました。
 インハウスに行くのであれば、他にも会社はたくさんあると思うのですが、GEを選ばれた決め手は何だったのでしょうか。
 GEのグローバル・リーダー達にお会いすることで、GEで働くことへの興味が高まりました。また、GEは「会社にローファームに勝るとも劣らぬ強いリーガル・チームがあり、またリーガルが重視されている」という点も大きな魅力でした。
 やはり、GEは他社に比べても、リーガルが重視される度合いが大きいのですね。
 他の会社を実際に受けたわけではないので、具体的に見比べたわけではありません。ただ、リーガルが意見を言っても最終的にはビジネス判断でそれを無視することができる会社の話も聞いたことがあります。しかし、入社前GEのリーガルの同僚から、「自分は、自分のインテグリティを損なうようなプレッシャーを受けて仕事をしたことは一度もない」という力強い言葉を聞けたことで、インハウスに転向するという決断をするための背中を押してもらえました。
 ローファームから、インハウスに移行すると、実際の仕事の進め方は大きく変わるものなのでしょうか。すでに、日本の法律事務所から米国の法律事務所に移籍されており、仕事のスタイルを変えることには慣れておられたかもしれませんが。
 日本の法律事務所からNYの法律事務所へと職場を変えたことにより、使用言語は、日本語から英語に変わりましたが、アソシエイトだったこともあり、仕事の内容自体は、リーガルのロジカルな思考方法という点で変わりはありませんでした。アンダーソン毛利で育ててもらい経験を積んだからこそClearyにも移籍でき、仕事についていけたのだと思います。ただ、丁度ブラックベリーがロイヤー全員に配布された年で仕事のスピードはNYの方が速く、また仕事の山と谷の波の差も大きかったです。
 仕事の進め方は、むしろ外部弁護士からインハウスへのほうが、大きく変わりましたね。
 どのような違いがあったのでしょうか。
 同じ日本語でも言語が違うというのでしょうか? 営業、広報、人事、財務等全く違った切り口から物事を見ている人達と働く中、簡潔で平易な説明がより求められるようになりました。また、外部弁護士としては、例えばM&Aでは事務所内部での専門化とのすり合せは結構あっても、クライアントの窓口は基本ひとつか少数なので、そことやりとりすればよかったのですが、インハウスになると、予め話をして擦り合わせなければならないファンクションの数が多くなります。テーマに関連する社内部署のそれぞれと擦り合わせをしなければなりません。また物事の重大さによりアジアレベル、グローバルレベルでの話が必要となってきます。
 社内の他部門との調整とは、面倒臭いものなのでしょうか。それとも、そこにも仕事のやりがいがあるのでしょうか。
 GEは「リーガルを戦略的な部署」として位置づけている会社なので、単に法律専門家というだけでなく、経営スタッフの一員としての発言を期待されています。そして、その役割にはやりがいを感じています。ビジネスのマネジメントの一員としての貢献が期待される面白さは、外部弁護士では感じることができない面白さだと思います。
 ただ、インハウスに移って「良いこと」ばかりではないですよね。外部弁護士のほうがよかったな、と思う点があれば、教えて下さい。
 そうですね、法律の細かい点まで含めて完璧主義を求めることはできなくなります。一流のローファームのように、論点を100%調べ尽くす、非の打ち所のない意見書を作成するという仕事の進め方は求められていません。70%、80%のことがわかれば、大体の感触で判断してスピードを重視して仕事を先に進めることのほうが多いです。
 最初は、つい、ローファームで働いている感覚で、なんでもかんでも、すべて細かいところまで可能な限り完璧に仕上げたい誘惑にもかられたのですが、敢えて、その感覚を捨てたところもあります。
 また、弁護士同士では基本同じ思考回路と言語ゆえそこまで深く考えずにできていた内部での説明も、会社に入ってから聞き手が関心を持っていること、聞き手に短時間でポイントを絞って理解してもらえる形でする必要があり、鍛えられました。
 インハウスになるリスクとして、「クライアントがひとつに限られてしまう」という点も指摘されますが、その点はいかがでしょうか。
 一般的にはそういう傾向があるかもしれませんが、GEに関して言えば、仕事に飽きることはありませんでした。私は、最初、GEのキャピタルに配属されましたが、キャピタル内でもリーシングや自動車リースの他Asset Based LendingやLBOファイナンスを行うストラクチャードファイナンスがあったりと、色々な内部クライアントと接していたので、ビジネスを学ぶので精一杯で退屈している余裕はありませんでした。コーポレート部門に移る前はアジアのM&A担当として中国やタイの売却案件に携わったりしていました。
 また会社としても、コングロマリットなので、入社当時に比べると「選択と集中」の結果部門数は少なくなりましたが、他のビジネス部門に異動することもありえますし、リージョナルひいてはグローバルにも活躍の機会は広がります。実際に私もアメリカへの転勤の話が過去にありました。丁度2008年の金融危機と重なりなくなりましたが、その後半年程GEキャピタルアメリカで勤務する機会もありました。
 一般には、「インハウス=ジョブ・セキュリティがある」というのが利点であると位置付けられています。しかし、外資系企業では、その利点が薄いと思うのですが、その点はいかがでしょうか。
 日本企業も、伝統的な終身雇用的な慣行を変えつつあると聞きますが、日本企業のインハウス経験者から話をお伺いすると、現実には、今でも、配置換えはあっても、日本企業では職が保証されていることが多いと聞きます。
 その点、私自身は、GEにいて、この会社に職を保証してもらいたい、と考えたことはありません。もしも、会社から「今までありがとう」と言われて、もう自分が必要とされなくなったならば、「ここで自分ができることは終わったのだから、別の場所で、次のステージに向かおう」という心の準備は常にしています。
 日本企業の働き方に慣れている人からすれば、ドライに聞こえるかもしれませんね。
 ただ、会社も社会も変化していくものですので、「会社が求めている人材」と「自分ができること」が違って来てしまっているにもかかわらず、そのまま雇用関係を維持することは、会社のためにもならないし、自分も成長できなくなってしまうと思います。だったら、自分が貢献できる職場に移るほうが、自分を評価してくれる職場に移るほうが、自分にとってもハッピーだと思います。
 大島さんのコメントに私からも付け加えさせてもらうと、それは、「ジョブ」の見方次第だと思います。会社内でのジョブ・セキュリティは、日系企業のほうが手厚いかもしれないけど、市場で見たら、そうとも言い切れないですよね。
 例えば、外資系金融機関では、業界内で、ひとつの金融機関から、他の金融機関に、くるくると人が入れ替わっています。会社の枠にとらわれずに、市場で必要とされるスキルをちゃんと磨いていれば、雇用の機会は確保されている、と言えるのかも。
 外資系企業には、年功序列はなくて、「その人に何ができるのか?」でその人に与えられる役割が決まります。それを残酷と思う人もいるかもしれませんが、「若いうちからチャンスをもらいたい」「自分ができることを試したい」という意欲を持った人に対しては、GEではその機会がある、と言えると思います。実際に、社内での大抜擢もしています。本人ができている範囲に止めずに、少しストレッチさせて、「ここまで頑張ってみて」というところまで役割が与えられますので、「自分を伸ばしたい」「自分がどこまで成長できるか挑戦してみたい」、そういう気持ちがある人には、機会を与えてもらえることが多い職場だと思います。
 人材紹介業をしていると、インハウスの方から「法律事務所に戻りたい」という相談を受けることもあります。大島さんは、2006年にGEに入られた際に、「一生、インハウスでやっていく」という覚悟を決められていたのでしょうか。それとも、「もしかしたら法律事務所に戻ることもあるかも」という気持ちもあったのでしょうか。
 私の周りでも、インハウスを経験してから、独立して法律事務所を始めた弁護士もいらっしゃいます。私自身も、インハウスになってから、最初の4〜5年間は、「いずれは法律事務所に戻ることもあるかも」という気持ちもありました。
 今は、そうではないのですか。
 今は、「会社のビジネスパートナーとして、一緒に戦略を立てて考えていく、そういった事ができる人そしてチームを育てる」という仕事に面白さを感じているので、外部弁護士に戻るよりも、インハウスの立場で仕事を続けていきたいと今は思っています。
 インハウスの仕事を続けているうちに考え方が変わってきたのでしょうか。
 そうだと思います。また、GEは、「チームを作る」「(専門分野を超えて)人を育てる」ということをすごく重視していますが、これも、法律事務所時代には意識していなかったことでした。GEで、色々なタイプのリーダーを見て来たことで、「人」がトップ・プライオリティであることを学びました。
 キャリアの目指す方向も、法律の専門性を深めることよりも、リーダー的な資質を磨くことに移って来たのですね。
 社内のリーダーに求められるのは、「適切な質問をする能力」と「社員のアウトプットを最大限にする環境作り」それから「Bad newsを受け止められる力」だと思います。インハウスとしては、全部の法分野についての知識がなくとも、自分の専門外のことでも、何か問題が起きたときに、「ここはどうなの?」と、その分野の専門家やその事実関係に詳しい方に質問をして、問題がどこにあるかを炙り出して分析することが大事です。
 これは、何もリーガルに限った話ではありません。ビジネスやファイナンスの部門からも、法律的な問題に関して、とても鋭い質問を受けることがあります。そういう質問力や分析力は、法律事務所時代の自分には重要性を実感できていませんでした。Bad newsを受け止められる力は、会社の問題を早めに吸い上げ解決にとりくむために大変重要です。耳ざわりのよいことしか周囲がいってくれないと現実が見えなくなりますし、隠れた問題が表面化しないと、どんどん大きくなっていきますから。これはガバナンスの観点からも非常に重要だと思います。
 法律事務所のパートナーも、クライアントと長期的信頼関係を築くには人間力が重要だと思いますが、特にインハウスでは、周囲をインフルエンスして、周りに自発的に動いてもらう、そのための空気を作っていく、という人間力についてより学べる場だと思います。

 

(続く)

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