◇SH2754◇ベトナム:労働法改正の最新動向① 井上皓子(2019/09/04)

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ベトナム:労働法改正の最新動向①

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 井 上 皓 子

 

 ベトナム政府は、現在、2012年に制定された現行ベトナム労働法を、関連政令も含めて全面的に改訂し、新法及び新政令を2021年1月に施行することを目指して検討を進めている。2019年5月29日に公表された最新の草案(以下「草案」という。)について、実務に与える影響が大きいと思われる点を中心に概説する。なお、草案においてはいくつかの選択肢が示されている条文もあり、ベトナムでは国会審議で法案の内容が大きく変更されることもあるので、今後も実質的な修正がなされることが想定される。

 

1.労働契約の締結

 現行法では、3か月未満の一時的な契約を除き、労働契約は「書面」で締結しなければならないとされており(現行法16条)、3ヶ月未満の契約は口頭によることが認められているが、草案では、口頭で労働契約が締結できる場合は労働契約の期間が1か月未満のものに限るものとされ(草案14条2項)、併せて、電子メール等の手段によるものも「書面」とみなすことが明確化された(草案14条1項)。

 また、一方当事者が仕事を行うこと及びそれについての給与、管理・監督に関する条項が含まれる契約については、その名称を問わず「労働契約」と認めることとする規定が追加された(草案13条1項)。これにより、現在は、実態は労働関係であっても、名目を業務請負契約(Service Agreement)等とすることにより、労働関連法規の適用を潜脱しようとする動きが(主にローカル企業において)見られるところ、そのような契約も、上記の条項が含まれるものについては実質的には労働契約であるとみなされ、強制保険を含む関連法規の適用を受ける可能性が出てきた。どのような基準で労働契約とその他の業務請負契約等を区別するかという点については明確にされておらず、場合によっては当局担当官の恣意的な判断によって労働契約とみなされる可能性もあるため、今後の動向に留意が必要である。

 

2.有期労働契約

 季節的業務のための労働契約というカテゴリーが廃止され(現行法22条1項c)、有期労働契約の期間について、現行法では12か月以上とされていた下限が廃止された(草案20条1項b)。これにより、現在は、12か月未満の有期労働契約は、季節的業務又は特定業務の履行のための場合のみ締結できるとされていたが、今後は、こうした限定された業務以外の一般的な業務であっても短期の有期労働契約の締結が可能となることが予想され、より柔軟な有期労働契約の運用が期待される。なお、有期雇用契約の期間の上限は36か月であり、現行法から変更はない。

 現行法では、有期労働契約の更新は1度のみ認めることとされており、この点については草案でも維持されている(現行法22条2項、草案20条2項)。ただし、草案では、最初の有期契約の期間満了後、新たに契約を締結することなく引き続き労働に従事した場合は、従前の有期労働契約の更新ではなく、無期労働契約の締結とみなされることとする規定が追加された(草案20条2項)。これにより、期間の満了を見過ごした場合には自動的に無期契約に転換することとなりかねないため、留意が必要である。

②につづく

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