◇SH2570◇ベトナム:【Q&A】外国人労働者の強制社会保険加入義務化に関する最新の動向 井上皓子(2019/05/30)

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ベトナム:【Q&A】外国人労働者の強制社会保険加入義務化に関する最新の動向

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 井 上 皓 子

 

  1. Q: 外国人の強制社会保険の加入の義務化が開始されたものの、企業内異動の外国人労働者は対象外となると聞いていました。しかし、実務上は、管轄当局によっては製造業の企業内異動の外国人労働者も強制社会保険の加入対象になると言ってくる例があると聞きました。この点についてもう一度整理して教えていただけますか。

 

Ⅰ 外国人労働者の強制社会保険加入義務の適用対象

 外国人労働者の強制社会保険への加入については、以前の記事(SH2306 ベトナム:社会保険の加入の強制化(上)及びSH2309 ベトナム:社会保険の加入の強制化(下))にて解説したとおり、政令第143/2019/ND-CP号(「政令143」)により義務化されましたが、政令143は、①ベトナムの管轄機関によって発行された労働許可証等を有し、かつ②ベトナムでの雇用主と締結された無期限または1年以上の労働契約に基づき、ベトナムで就労する外国人労働者を対象とした上で、このような条件を満たす場合でも、(a)政令第11/2016/ND-CP号(「政令11号」)第3条第1項に定義された「企業内異動」の外国人労働者および(b)定年に達した労働者は強制社会保険加入義務の対象外としました。

 

Ⅱ 実務上の混乱

 ところが、ご指摘のとおり、例外要件である「企業内異動」の外国人労働者の扱いについて実務上混乱が見られます。具体的には、管轄当局によっては、上記(a)の例外は労働許可証が免除されているWTOコミットメント規定の11サービス分野に含まれる業種で従事する外国人のみが対象であるという誤解をして、それ以外の業種(製造業など)で従事する外国人労働者の場合は一律に企業内異動とは認めないといった主張をしてくる例や、出向辞令に基づき労働許可証を取得していても、税務等との関係で現地法人と労働契約書を締結した場合は企業内異動とは扱わないといった例が散見されていました。

 このような状況に対して、ベトナム日本商工会議所からは労働傷病兵社会問題省に対して要望書を提出し、上記のような誤解に基づく指導がされないよう「企業内異動」の定義を明確にしたオフィシャルレターの発行を求めていました。

 

Ⅲ オフィシャルレター第1064号

 このような状況を受けて、労働傷病兵社会問題省は、本年3月18日、オフィシャルレター第1064/LDTBXH-BHXH号を発行し、外国人労働者のうち強制社会保険の加入が必要となる者の要件を明確にしました。これによれば、外国人労働者は、以下の条件を全て満たす場合にのみ、強制社会保険の加入が義務付けられることになります。

  1.   ベトナムの管轄機関によって発行された労働許可証、実務資格要件充足証書又は実務資格ライセンスを有すること
  2.   ベトナム側の雇用主と無期限又は1年以上の労働契約を締結していること
  3.   60歳未満の男性及び55歳未満の女性であること。
  4.   政令11号第3条1項に定める企業内異動の外国人に該当しないこと。なお、企業内異動の外国人労働者とは、ベトナム現地商業拠点を設立した外国企業の管理者、代表取締役社長、専門家、技術労働者として外国企業に12ヶ月以上前に採用され、外国企業からベトナム現地商業拠点に一時的に異動する者をいう

 上記からおわかりのとおり、これは、新たな条件等を規定するものではなく、政令143の要件をわかりやすく書き直したにすぎません。業種を問わず企業内異動の対象になることや、労働契約の有無は無関係であることを明記して欲しかったところですが、少なくとも、政令143を文字通り解釈することを各当局に要請するものと理解でき、に挙げたような政令143についての誤った解釈から生まれる行政指導は今後なされなくなることが期待されます。

 もっとも、本講座第80回でも指摘したような、兄弟会社間の異動やマイノリティ出資先への出向等が「企業内異動」に含まれるかについては、なお明確になっていません。

 

Ⅳ 企業内異動に含まれるかどうかの判断のポイント

 では、実務上、貴社で勤務されている外国人の方が「企業内異動」と認められるかどうかはどのように判断されるのでしょうか。

 まず、貴社がWTOコミットメント規定の11サービス分野に含まれる業種を主たる事業としている場合で、対象者が政令11号第3条1項に定める条件を満たしている場合には、労働許可証の免除対象になりますので、労働許可証が不要である旨の確認手続きを行うべきことになります。この確認証が得られているのであれば、その対象者は「企業内異動」によって就労する者であり、強制社会保険加入義務の対象外であると言えることになります。

 他方、貴社が製造業などWTOコミットメント規定の11サービス分野に含まれる業種以外の業種である場合、対象者が政令11号第3条1項に定める条件を満たしている場合であっても、労働許可証の取得が必要となります。しかし、この場合、労働許可証の取得手続において、「企業内異動」である場合と、それ以外の場合とで、申請書の書きぶりや申請書類が異なってきます。まず、労働許可証の申請書には、「就労形式」についての記載欄があり、現地採用の場合は「労働契約の実施」、企業内異動の場合には「企業内異動」等を明記する必要があります。そして、企業内異動として労働許可証の発行を申請する場合は、出向前の12カ月間出向元で雇用されていたことを証明する必要があるため、添付資料として①出向先である外国企業の任命書・確認書、②出向先である外国企業との間の労働契約書、③出向先である外国企業の採用決定書、④当該出向者の納税証明書/保険料の納付証明書(通達第40/2016/TT-BLDTBXH第6条4項)のいずれかを提出することになります。また、最近、このような手続きを経て、ハノイ市労働局から発行された労働許可証では、欄外に労働形態を記載する印字がされ、「企業内異動」である場合にはここにその旨が記載されるようになっています(ただし、政府のフォーマットには記載がないため、地方によって扱いが異なるものと思われます。)。このように企業内異動である旨が明示された労働許可証を有していれば、強制社会保険加入義務の対象外であることは明確といえます。

 

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