企業活力を生む経営管理システム
―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―
同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー
齋 藤 憲 道
3.「製品規格」の仕組みが業法・有害物質規制・表示規制等の遵守に有効
(3)「表示規制」を守る
例4 JAS法[1]
JAS法は、農林水産分野において適正・合理的な「規格を制定」し、適正な認証・試験等の実施を確保するとともに、農林物資(飲食料品以外)の「品質表示の適正化」の措置を講ずることにより、農林物資の品質の改善、生産・販売・その他の取扱いの合理化・高度化、農林物資に関する取引円滑化、一般消費者の合理的な選択機会の拡大を図る。これにより、農林水産業・その関連産業の健全な発展と一般消費者利益の保護に寄与する。(1条)
- (注) 飲食料品に関する表示は、食品表示法の規定による。食品表示法の「食品」には、医薬品類を除く全ての飲食物が含まれる(添加物を含む)。(同法2条1項)
農林水産品・食品等がJAS規格に適合していることが認証・証明された対象には、「JASマーク」を表示することができる。(同法10条)
JAS規格の対象:モノ(農林水産品・食品)、モノの生産方法、事業者による取扱い方法、モノに関する試験方法
例5 医薬品医療機器等法
医薬品は、その直接の容器・被包に法定の事項を記載しなければならない[2]。
- 記載事項(例)製造販売業者の名称・住所、医薬品の名称、製造番号、重量・容量・個数、有効成分、貯法、有効期間等
また、添付文書又は容器・被包に「添付文書等記載事項」を記載することが義務付けられ、これを厚生労働大臣(実務はPMDA)に届け出なければならない[3]。
添付文書記載事項(例) (脚注に詳細を記載)
なお、何人も、医薬品・医薬部外品・化粧品・医療機器等の、名称・製造方法・効能・効果又は性能に関し、明示・暗示を問わず、虚偽・誇大な記事を広告・記述・流布をしてはならず、広告等に関して医師等が保証したと誤解されるおそれがある記事を広告等することも禁止される[4]。医薬品等適正広告基準[5]等により具体的な運用方法が示されている。
例6 住宅品質確保法
住宅品質確保法[6]により、住宅の性能に関する表示基準及びこれに基づく評価制度の創設、及び、住宅に係る紛争の処理体制の整備(裁判外[7])が行われ、新築住宅の瑕疵担保責任の10年間の義務化等が定められた。
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・「日本住宅性能表示基準[8]」は、国土交通大臣及び内閣総理大臣が定めて告示する(3条)。
この基準は、住宅の性能に関して表示すべき事項[9]・表示方法に関する基準を定めている。 -
例 「構造の安定」の分野における表示すべき事項「耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)」の表示方法は、「等級(1、2又は3)による。」
※ 等級は、建築法規[10]が定める地震による力の何倍の力に倒壊・崩壊等しない程度かにより定める。
- ・住宅性能評価機関を整備し、この登録機関が交付する「住宅性能評価書[11]」が契約に添付(又は写しが交付)された場合は、そこに表示された性能を契約内容と見なす(5条、6条)。
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登録機関は、「日本住宅性能表示基準」に従って表示すべき性能に関し、「評価方法基準」に従って評価する[12]。
例7 特定商取引法(特商法)[13]
訪問販売・通信販売・連鎖販売取引等は、特定商取引として規制されている。
例えば、訪問販売については、勧誘開始前の氏名・契約勧誘目的・商品の種類等の明示を義務付け、書面(契約内容)交付義務を課し、不実告知等の不当勧誘行為を禁止している。通信販売では、消費者が商品を選択するための情報の大半が事業者の広告に依存することから、広告に表示すべき事項を定め[14]、誇大広告等は禁止する。
消費者は、特定商取引に関する契約が成立した後でも、法律に基づいて法定期間内のクーリング・オフが認められる。
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(注) 多くの法律[15]で、8日又は20日の期間内(10日、14日とする例もある。)のクーリング・オフが制定されている。なお、起算日が異なるので注意する必要がある。
例8 不正競争防止法[16]
商品・役務・広告・取引に用いる書類・通信等に、商品の原産地・品質・内容・製造方法・用途・数量、若しくは、役務の質・内容・用途・数量(提供する期間・時間の長短等)等について誤認される表示をし、その表示をした商品を譲渡・引渡し・展示・輸出・輸入等する行為を「誤認惹起行為」とし、不正競争の一類型として規制する。
被害者は加害者に対して民事の差止請求・損害賠償請求をすることができる。公益を害する者には刑事罰が科される。
例9 インターネット取引に係る表示のルール(検討段階)
近年、インターネット上の取引が拡大しており、様々な類型の取引が出現している。
- 例 ショッピングモール、シェアリングサービス、オークション、フリーマーケット
これらの取引には、財・サービスの提供者、その購入者・利用者、プラットフォームの提供者等が関与しているが、買い手(消費者、事業者)と売り手(事業者)の間の取引について契約・約款の規定、及び、買い手の保護(消費者保護、事業者間の取引条件)のあり方を検討してきた従来の方法では、十分に対応できない案件が増えている。
- 例1 中古品市場で個人が売り手(物品の提供者)になる場合、従来、事業者に課されてきた義務を負うか。
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例2 個人(消費者)がネットを介して多量に仕入れ、仲間内等に転売・分配する場合、この転売者は事業者か。
特定商取引法の通信販売事業者に該当する場合は、表示すべき事項が詳細に定められている[17]。 -
例3 オンラインプラットフォーム事業者はどの範囲の責任を負うか。
例:出店・出品の審査、財・サービスの表示基準の作成・運用、広告の透明性確保、決済システムの安全性の確保、個人情報保護法遵守の具体的な方法
インターネット取引は、取引の相手方を直接確認せずに行われることが多く(確認できないことも多い)、広告・約款等の表示が取引の安全性・適切性を確保するうえで極めて重要な役割を果たしている。
グローバル企業では世界統一ルールを定めて運用する例が多いので、各国のインターネット取引表示ルールの動向に留意しつつ、日本のルールを定めていきたい。
以上、業法、有害物質規制、及び表示規制の3分野の法令とその遵守について考察した。
これを踏まえて、次に、企業全体の経営管理システムのあり方の概要を考えてみる。
なお、詳細については、次章以降で検討する。
[1] 日本農林規格等に関する法律(「農林物資の規格化等に関する法律」を2017年(平成29年)に改正・改題)
[2] 医薬品医療機器等法50条、51条。医薬品医療機器等法施行規則210条、211条
[3] 医薬品医療機器等法52条1項、52条の2。なお、「医療用医薬品の添付文書等の記載要領について(薬生発0608第1号 平成29年(2017年)6月8日 厚生労働省医薬・生活衛生局長)」は記載項目及び記載順序を次の通り定めている。ア作成又は改訂年月、イ日本標準商品分類番号、ウ承認番号・販売開始年月、エ貯法・有効期間、オ薬効分類名、カ規制区分、キ名称。1警告、2禁忌、3組成・性状、4効能又は効果、5効能又は効果に関連する注意、6用法及び用量、7用法及び用量に関連する注意、8重要な基本的注意、9特定の背景(合併症他)を有する患者に関する注意、10相互作用、11副作用、12臨床検査結果に及ぼす影響、13過量投与、14適用上の注意、15その他の注意、16薬物動態、17臨床成績、18薬効薬理、19有効成分に関する理化学的知見、20取扱い上の注意、21承認条件、22包装、23主要文献、24文献請求先及び問い合わせ先、25保険給付上の注意、26製造販売業者等。
[4] 医薬品医療機器等法66条1項・2項
[5] 都道府県知事・保健所設置市長・特別区長宛の、厚生労働省医薬・生活衛生局長通達(薬生発0929第4号 平成29年9月29日)
[6] 「住宅の品質確保の促進等に関する法律(平成11年法律第81号)」の通称。「品確法」ともいう。
[7] 国土交通大臣の指定を受けた機関(住宅品質確保法78条): ADRを行う指定住宅紛争処理機関として住宅紛争審査会(全国の弁護士会に設置)、指定住宅紛争処理支援センターとして公益財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センター
[8] 平成13年(2001年)国土交通省告示第1346号、改正・平成18年(2006年)国土交通省告示第1129号
[9] (新築住宅に係る表示事項:次の10分野について規定)構造の安定、火災時の安全、劣化の軽減、維持管理・更新への配慮、温熱環境、空気環境、光・視環境、音環境、高齢者等への配慮、防犯。(既存住宅に係る表示事項:現況検査+次の7分野について規定)構造の安定、火災時の安全、維持管理・更新への配慮、空気環境、光・視環境、高齢者等への配慮、防犯
[10] 建築基準法施行令88条3項
[11] 新築住宅の建設工事の、着手前・完了前に契約に用いる「設計住宅性能評価書」と、完了後に契約に用いる「建設住宅性能評価書」がある(住宅品質確保法5条1項、6条1項・2項・3項)。
[12] 住宅品質確保法3条の2第1項。評価方法基準(平成13年<2000年>国土交通省告示第1347号、改正・平成21年<2009年>国土交通省告示第354号)
[13] 特定商取引法3条、4条、6条1項、9条、11条、12条、15条の2
[14] 「特定商取引法11条」及び「特定商取引に関する法律施行規則(平成29年内閣府・経済産業省令第1号)8条、9条」が定める広告に表示すべき事項を次に例示する。商品等の価格、代金の支払時期・方法、引渡し等の時期、契約解除に係る事項、法人のネット販売に係る業務責任者名、瑕疵担保責任の内容、電子情報をPC処理するのに必要なPCの仕様等、販売契約の継続締結の必要・販売数量の制限があるときはその内容、メール広告する業者のメールアドレス。
[15] 特定商取引法9条、24条、40条、48条、58条。割賦販売法35条の3の10。ゴルフ場等に係る会員契約の適正化に関する法律12条。特定商品等の預託等取引契約に関する法律8条。金融商品取引法37条の6、同法施行令16条の3。宅地建物取引業法37条の2。不動産特定共同事業法26条。保険業法309条。
[16] 不正競争防止法2条1項14号
[17] 特定商取引法11条