経産省、「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」を策定
岩田合同法律事務所
弁護士 大 櫛 健 一
経済産業省(以下「経産省」という。)は、令和元年6月28日、「コーポレート・ガバナンス・システム研究会(CGS研究会)(第2期)」における議論に基づき、「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」(以下「グループガイドライン」という。)を策定し、公表した。グループガイドラインでも指摘されているとおり、昨今、グローバル化の進展に伴い、特にM&Aで取得した海外子会社に対し、本社の目が行き届かず、不祥事発生のリスクが高くなっていると言われている。本稿では、不祥事の予防と関連付けて論じられることが多い「内部統制システムの在り方」について紹介する[1]。
グループガイドラインは、名称のとおり、グループ企業におけるガバナンスの在り方について検討されたものであり、グループ企業における内部統制に関しても望ましい取組みについての提言がなされている。そこでの運用例の一つとして紹介されているものが以下である。
(出典)本研究会第8回資料4(事務局資料)より抜粋。
上記運用例における考え方の主軸は、いわゆる「3線ディフェンス」及び「三様監査」である。「3線ディフェンス」とは、第1線(事業部門)、第2線(本社部門〔管理部門〕)及び第3線(内部監査部門)から構成される3段階の独立したチェック機能を働かせようとする内部統制システムの仕組みであり、グローバルスタンダードして確立されたものと考えられている。また、「三様監査」とは、監査役・監査等委員会・監査委員会(以下「監査役等」という。)、会計監査人及び内部監査部門の三者連携による監査手法をいい、「3線ディフェンス」の導入・運用を含む内部統制システム自体をも監査の対象とするものである。
「3線ディフェンス」及び「三様監査」のいずれについても、各企業において導入・運用が期待される内部統制の手法であるものの、グループガイドラインにおいては、各企業(すなわち、一の企業)ごとにこれらの仕組みを完結させてしまうと実効性が損なわれてしまう恐れがあり、グループ企業においては相互連携がより重要になるとの問題意識が顕れている。
一例として、子会社における第2線(本社部門)の独立性及び実効性を確保するためには、親会社における第1線(事業部門)のレポートラインや人事評価から切り離すべきではないかとの点が挙げられる。グループガイドラインにおいても、第2線(本社部門)の実効的な機能発揮のためには、本社部門が事業部門から実質的に独立した立場にあることが重要であり、本社部門と事業部門との間でレポートラインや人事評価権者などをできる限り分離し、親会社の本社部門と子会社の本社部門を直接のラインとして通貫させる(いわば「タテ串」を通す)ことにより、事業部門からの不当な影響を排除し、健全な牽制機能を発揮できるようにすることが検討されるべきとされている。
また、グループガイドラインでは、三様監査に関しても、グループ企業全体の内部統制システムの監査では親会社の監査役等と子会社の監査役等が連携して効率的に行われることが重要であること、内部監査部門は「3線ディフェンス」における第3線としての適切な機能発揮と監査役等の機能発揮を支える部門としての活用の双方の観点から、業務執行ライン上の報告経路に加えて、監査役等に対する報告経路をも確保すること(いわゆる「デュアルレポートライン」)を社内規程で定めておくことが望ましいことなどが指摘されている。
グループ企業の内部統制に関する議論は、グループガイドラインを契機として更に深化・発展することが見込まれる。引き続き、今後の議論及び実務の動向には注意を要しよう。
以上
[1] グループガイドラインの全体像及び概要については、同ガイドライン案について紹介した「SH2548 経産省、第16回CGS研究会第2期――グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針(案) 柏木健佑(2019/05/21)」を参照されたい。