タイ:法人における贈賄防止のための内部統制措置に関するガイドラインの制定
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 佐々木 将 平
本年8月、汚職防止委員会(National Anti-Corruption Commission)は、法人が公務員、外国公務員及び公的国際機関職員に対する贈賄を防止するための適切な内部統制措置に関するガイドライン(Guidelines on Appropriate Internal Control Measures for juristic Persons to prevent bribery of state officials, foreign public officials and agents of public international organizations)を公表した。
タイの反汚職法(Organic Act on Counter-Corruption B.E. 2542 (1999))上、公務員に対する贈賄については、贈賄を行った個人に対して刑事責任が科せられるだけでなく、一定の場合には法人に対しても刑事責任が科される。具体的には、贈賄行為者が、法人の従業員、代理人、関連会社又はその他法人代表者等である場合、その贈賄行為が法人の利益のために行われたときは、かかる者が当該行為を行う権限を有していたか否かに拘わらず、法人が「汚職防止のための適切な内部統制措置」を取っていない限り、法人にも損害額又は贈賄額の1倍から2倍の罰金が科されるものと規定されている。しかし、反汚職法においては、この「汚職防止のための適切な内部統制措置」の定義は置かれておらず、法人が具体的にどのような内部統制措置を取ることが求められているのかは必ずしも明らかではなかった。
今回公表された上記ガイドラインにおいては、法人が構築すべき「汚職防止のための適切な内部統制措置」の内容が規定された。ガイドラインは汚職防止委員会のウェブサイトにおいて英文で公表されており、60ページ超にわたって具体的なケーススタディも交えて詳細な記載が行われている。内容面でも、国際的なスタンダードに概ね沿ったものになっていると思われる。具体的な項目は以下の通りである。
- 1. 汚職と戦うための、トップレベルの経営陣からの強力かつ可視化された政策及び支援
- 2. 汚職のリスクを効果的に特定し評価するためのリスク査定
- 3. 高リスクかつ脆弱な分野のための強力かつ詳細な対策
- 4. 事業パートナーに対する汚職防止策の適用
- 5. 正確な帳簿及び会計記録
- 6. 汚職防止策を補完する人事管理政策
- 7. 汚職の疑いについて報告を促すコミュニケーションの仕組み
- 8. 汚職防止策とその効率性の定期的な見直し及び評価
また、同ガイドラインにおいては、タイの贈収賄規制の解釈において参考となる分析も行われている。たとえば、上記3の項目においては、公務員に対するいわゆるファシリテーションペイメントは行うべきでないと明記されている一方で、良好な関係を構築・維持し、また、社会儀礼のために行われるもてなしのための支出や贈答(hospitality expenditure and gifts)は許容され得ることが示唆されている。また、公務員側が受け取ることのできる贈答等について定めた規則(いわゆる3,000バーツルール)を、法人における贈答のポリシーとして採用することも可能であるとされている。
今後は、当該ガイドライン内容を踏まえて、汚職防止の内部統制措置を講じていく必要がある。