◇SH2815◇ミャンマー:M&A取引を規律する法制度をめぐる近時の動向(後編) 酒井嘉彦(2019/10/09)

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ミャンマー:M&A取引を規律する法制度をめぐる近時の動向(後編)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 酒 井 嘉 彦

2. 新会社法の施行によるM&A手法への影響(承前)

 本稿では、前稿に続き、ミャンマー国内においてM&A取引を行う場合に注目すべき法制度に見られる近時の動向について、その概略を紹介する。なお、本稿は、長島・大野・常松法律事務所シンガポール・オフィスのWin Shwe Yi Htunミャンマー弁護士と共同で執筆している。

(2)内資会社の株式の取得に関する規制緩和

 ミャンマーにおけるM&A取引では、株式譲渡又は新株発行の方法による株式取得か事業譲渡のいずれかの方法がとられるのが一般的である。旧会社法においては、外国人及び外国企業が、内資会社の株式を直接取得するには投資企業管理局(Directorate of Investment and Companies Administration。「DICA」)による事前の承認が必要であり、かかる承認を得ることは実務上困難であったが、新会社法においては、かかる承認は不要となり、一定の場合のDICAへの事後通知で足りることになった。外国人及び外国企業にとって、内資会社の株式を直接譲り受け又はその割当てを受けるという選択肢が新たに増えたことは注目に値する。

(3)その他、採用できるストラクチャーの多様化・柔軟化

 他にも、新会社法の下では、一人会社(株主が1名の会社)が認められることとなり、100%子会社の設立が可能となった。また、種類株式の内容やその発行手続についての規定が設けられ、株式の権利内容の柔軟な設計ができるようになった。

 他の英国法系の国ではM&Aの手法として頻繁に利用されるスキーム・オブ・アレンジメント制度が事実上ほぼ利用されておらず、その実務が確立されていないことや、1987年不動産譲渡制限法に基づく外国人又は外国企業による不動産の取得・使用規制が依然として残っていることなど、未だ残された検討課題はあるものの、今後も上記のようにM&A取引を活性化する方向で法整備が進められることが期待される。

 

3. ミャンマー競争法委員会の組成

 ミャンマー競争法(「競争法」)は2017年2月に施行され、同年10月に公表された施行規則とともに、競争を制限する行為の禁止、市場の独占の禁止、不公正な競争の禁止及び企業結合規制について定めている。しかしながら、これまで、競争法を所管する監督官庁となる競争法委員会が設立されておらず、また、規制の要件や基準について明確でないものもあり、競争法はその完全な効果を見せていなかった。例えば、競争法は、市場の独占につながる行為を禁じているものの、いかなる行為が市場の独占につながるかについての基準は明らかではない。また、企業結合規制の要件の詳細やその届出手続についても明確ではない。

 このような状況の中、ミャンマー政府は、2018年10月31日に、ミャンマー競争法委員会(「競争法委員会」)の設立を正式に発表した。競争法委員会は、競争法のルールを具体的に執行する機関として重要な役割を果たすことになっており、ミャンマーが公正、安全かつ健全な投資を行う環境を確保しつつ、競争政策における基準と手続を明確化していく上での大きな一歩を踏み出すものといえる。M&A取引においては、今後競争法委員会により示されるであろう具体的な指針や競争法の解釈・運用に十分留意する必要がある。

 

4. おわりに

 ミャンマーでは、上記の他にも、知的財産法の分野において、2019年1月に商標法及び工業意匠法が、同年3月に特許法が、同年5月に新著作権法がそれぞれ制定され、今後順次施行されることが予定されているなど、これまで他のASEAN諸国に遅れをとっていた法制度の整備やビジネスインフラの改革への取り組みが行われており、海外の企業や投資家の呼び込みの効果を上げつつある状況にあるため、今後もその動向に注目していきたい。

 

以上

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