◇SH2920◇文化庁、著作物等のライセンス契約に係る制度の在り方に関するワーキングチーム(第2回)を開催 齋藤弘樹(2019/12/05)

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文化庁、著作物等のライセンス契約に係る制度の在り方に関する
ワーキングチーム(第2回)を開催

岩田合同法律事務所

弁護士 齋 藤 弘 樹

 

 令和元年11月8日、文化庁の文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会の著作物等のライセンス契約に係る制度の在り方に関するワーキングチーム(以下「本ワーキングチーム」という。)の第2回会議が開催された。

 本ワーキングチームは令和元年8月9日に、①独占的ライセンスの対抗制度の導入及び②独占的ライセンシーに対し差止請求権を付与する制度の導入を検討課題として設置されてものであり、同月27日に第1回会議が開催されている。

 以下、まず上記①②の問題の所在について説明した上で、本ワーキングチームの第2回会議における議論状況について解説する。

 

1 独占的ライセンスの対抗制度について

 現在の著作権法では、著作物の利用許諾契約(ライセンス契約)における利用者(ライセンシー)は、著作権が第三者に譲渡された場合、著作権の譲受人に対し、当該利用許諾に係る著作物を利用する権利(著作物を利用許諾に係る利用方法及び利用条件に従って利用することができる権利)を対抗する手段がない。また、ライセンサーが破産・倒産し、破産手続等の開始時にライセンス契約が双方未履行の場合には、対抗要件を備えられないため、ライセンシーは破産管財人等から契約を解除されるおそれがある。したがって、ライセンスの対象となる著作物の利用継続ができなくなるおそれがあり、ライセンシーの地位は不安定な状況下にあると考えられている。

 このような状況の改善のため、ライセンシーがライセンサーからの譲受人等に対して、利用許諾に係る権利を主張できるようにするための対抗制度の導入が提案されている。[1]

 

2 独占的ライセンシーと差止請求権

 現在の著作権法では、ライセンシーが独占的ライセンス[2]契約を締結している場合であっても、ライセンシーは著作権者(ライセンサー)から著作権等の譲渡された者(譲受人)や不法利用者に対して自ら利用の差止めを請求することができない。[3]

 このような状況の改善のため、本ワーキンググループは、独占的ライセンス契約のライセンシー(以下「独占的ライセンシー」という。)に対して差止請求権を付与することを検討している。

 

3 本ワーキングチームの第2回会議における議論状況

 第2回会議では、①独占的ライセンス契約の実態、②独占的ライセンシーから直接差止請求ができないことについて問題となった事例や懸念点、③独占的ライセンシーに固有の差止請求権を付与する制度の導入、といった事項について関係者に対するヒアリングが実施された。

 第2回会議の資料によれば、本ワーキンググループでは、独占的ライセンシーによる差止請求権を認める要件として、①独占的ライセンスの登録、②独占的ライセンス契約の存在及び当該契約に基づく事業の実施の立証、③独占的ライセンス契約の存在を立証するとともに、相手方が独占的ライセンス契約の存在を認識していることの立証、④独占的ライセンス契約の存在の立証、といったものが検討されている(それぞれ要件が異なっている。)。

 また、独占的ライセンシーによる差止請求権を認めるために、単なる利用許諾に係る権利と異なり、差止請求権が認められている著作権法80条の出版権類似の物権的な独占的ライセンスの権利を創設する、という方法も検討されている。

 

4 企業に対する影響

 すでに提案されている対抗制度の導入についても、差止請求権の付与についても、仮に実現すればライセンス契約の実務に一定の影響を有するものと思われる。

 著作物の利用に関するライセンス契約に関与し得る企業としては、今後とも議論の動向に留意する必要がある。

以 上



[1] 文化庁の文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会の著作物等のライセンス契約に係る制度の在り方に関するワーキングチームは平成30年にも存在し、同ワーキングチームは同年10月29日、かかる対抗制度の導入を基本問題小委員会に対して提案した。

[2] ライセンシーが単一に限定されている場合、つまり、ライセンサーがライセンス契約で付与したライセンスの範囲と重複するようなライセンスを他の者に付与しないことを合意している場合を、本ワーキングチームは便宜上「独占的ライセンス」と呼んでいる。

[3] 仮に対抗制度が導入され、 譲受人等に対してライセンシーが利用許諾に係る権利を主張できるような状況になったとしても、差止請求権の付与がなければ、自ら譲受人等による利用の差止めを請求することはできない、という結論になり得る。

 

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