SH3015 ベトナム:新労働法による変更点① 労働契約の締結、種類、有期雇用契約 井上皓子 (2020/02/19)

そのほか労働法

ベトナム:新労働法による変更点①
労働契約の締結、種類、有期雇用契約

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 井 上 皓 子

 

 新しい労働法(45/2019/QH14)(以下「新法」)が11月20日に国会で可決成立し、12月6日に公布されました。新法は2021年1月1日に施行されることになります。本稿では、数回に分けて、新法による現行法からの主要な変更点や、企業が労務管理上気を付けるべきポイントを解説していきたいと思います。

 初回は、労働契約の締結、種類と有期雇用契約に関する改正です。

 

1 変更内容の概要

 

論点 現行法 新法
労働契約の形式 文書締結義務(第16条1項)
3か月未満の労働契約については口頭でも可(同2項)
文書締結義務。電子メールを含む電子的形式も文書とみなす(第14条1項、電子取引法第10条)。
1か月未満の労働契約については口頭でも可(第14条2項。例外あり)
労働契約の種類 無期労働契約
有期労働契約(12~36か月)
季節的業務等(12か月未満)
(第22条1項)
無期労働契約
有期労働契約(36か月以下)
(第20条第1項)
有期労働契約の満了 期間満了後も新規の労働契約を締結することなく労働を継続している場合、無期労働契約に転換したものとみなす(第22条2項)
更新は1回のみ。
期間満了後30日経過後も新規の労働契約を締結することなく労働を継続している場合、無期労働契約に転換したものとみなす(第20条2項b)
更新は1回のみ。ただし例外あり(同c)

 

2 労働契約の締結の形式

 労働契約は、現行法でも原則として文書で締結することとされていました。新法のもとでは、電子メール等の電子的形式も「文書」と認められることが明確になりました。安易に電子メール等で雇用条件等のやりとりをしないよう留意されたほうがよいでしょう。

 また、これまで3か月未満の労働契約については口頭での契約締結が可能とされていましたが、改正により、口頭で締結できる労働契約は、1か月未満のものに限られることになりました。ただし、①18歳以上の労働者との季節的業務にかかる労働契約、②15歳未満の労働者との労働契約、③家事手伝いの労働者との労働契約については、期間が1か月未満であっても書面での締結が必要となります。これまで、短期労働契約を口頭で締結されていた場合も、新法の下では書面が必要となる可能性があります。

 

3 労働契約の種類

 現行法では、①無期労働契約、②有期労働契約、③季節的業務等の3種類でした。また、有期労働契約は、12か月以上36か月未満の期間で締結することとされていました。新法では、季節的業務等のための12か月未満の臨時労働というカテゴリーが廃止され、代わりに、有期労働契約の下限が撤廃されました。

 これにより、現行法のもとでは季節的な業務や特定業務でしか認められなかった12か月未満の短期の労働契約が、業務の種類を問わず利用できることとなりました。企業にとっては、より柔軟性が増したと考えられます。ただし、期間満了後の無期労働契約へのみなし転換については、より留意が必要となりますので以下4をご参照ください。

 

4 有期労働契約の満了

 有期労働契約の満了に関する大きな改正ポイントは2点です。

 1点目は、期間満了後も新規の労働契約を締結することなく労働を継続している場合の無期労働契約へのみなし転換について、現行法では、単に「期間満了後も新規の労働契約を締結することなく労働を継続している場合」としているところ、新法では「期間満了後30日経過後も新規の労働契約を締結することなく労働を継続している場合」として、無期労働契約に転換する時期が明確にされたことです。うっかり期間満了に気づかなかった、ということがないとは言えませんので、少なくとも30日の猶予が明確に与えられたということの実務上の意義は小さくないものと思われます。

 また、現行法において、12か月未満の短期労働契約は、契約上の期限を超えて労働を継続した場合でも24か月の有期労働契約に転換するとみなされるだけでしたが、新法では、12か月以上の有期労働契約と同じく、無期労働契約に転換されることになりました。実際に無期労働契約に転換された場合の影響は非常に大きいため、従前、12か月未満の短期労働契約を利用されていた企業においては、より適切に労働契約の期間の管理を行う必要があると考えます。

 2点目は、有期労働契約の更新です。現行法も新法も、有期労働契約の更新は一回限りとし、2回以上の更新の場合は無期労働契約を締結する必要があるとしている点は同じです。ただし、新法は、これに例外を設け、①国が出資した企業の取締役との労働契約、②定年を迎えた高齢者(当面は男性60歳、女性55歳ですが、2021年以降毎年段階的に引き上げられる予定です)との労働契約、③外国人労働者との労働契約、④任期中の基礎レベル労働者代表組織のリーダーとの労働契約の場合は例外とされており、複数回にわたって有期労働契約を更新できることとされました。このうち、②は現行法では法令上明確でなかった部分でした。また、③の外国人労働者との労働契約については、労働許可証が2年単位でしか発行されないこととの矛盾を解消する目的であると思われます。

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