☆シンガポール:新型コロナウイルスの影響まとめ(速報) 坂下 大(2020/04/17)

2020年4月16日号
シンガポール:新型コロナウイルスの影響まとめ(速報)

                                                                                長島・大野・常松法律事務所

弁護士 坂 下   大

はじめに

 緊急事態宣言の発令以降、大都市圏の多くの企業が急速なテレワークへの切替えや事業体制の見直しに追われる一方、3月決算企業では決算・監査対応を中心に多くの課題が生じるなど、事業への影響は日々拡大しています。多くの海外地域においては引き続き厳格な外出制限や営業禁止等のロックダウン措置が継続している一方、一部地域においては行動制限の軽減・解除に向けた議論が始まるなど出口戦略の模索も始まりつつあります。

 本記事では速報ベースで各国の方針や影響拡大状況の概要につきお知らせ致します。なお、本記事は感染拡大が続く間、不定期に配信していきたいと思いますが、同感染症の拡大状況については日々状況が変化している中、本記事の内容がその後変更・更新されている可能性については十分ご留意の上参照ください。本記事の内容は、特段記載のない限り、日本時間2020年4月15日夜時点で判明している情報に基づいています。

 

全体概況  死亡者:10人、感染者数(累計):3,252人(4月14日現在)

 シンガポールでは4月7日からcircuit breakerと呼ばれる感染拡大防止措置がとられており、原則的な外出禁止、オフィスの閉鎖等が実施されている。この数日は、外国人労働者の宿泊施設等において大規模なクラスターが発生したこともあり(一定の施設には既に感染症法に基づく隔離措置がとられている。)感染者数は未だ増加傾向にあるが、今後、上記circuit breaker措置の効果により感染者数が減少に転じることが期待されている。

 

主な政府発表

  1. ・ 保健省(MOH)による、Disease Outbreak Response System Condition (DORSCON)と呼ばれる感染指標に基づくリスクレベルのオレンジへの引き上げ(2月7日)
  2. ・ 政府タスクフォースよる、国内における感染拡大防止措置の更なる厳格化の発表(3月24日)
  3. ・ 外出禁止措置(Stay Home Notice:SHN)不遵守に対する罰則等を定めた感染症法の下位規則の施行(3月25日)
  4. ・ circuit breaker措置の開始(4月7日)
  5. ・ COVID-19暫定措置法(COVID-19 (Temporary Measures) Act 2020)の成立(4月7日)

 

渡航情報

  1. 1. シンガポール国民、永住者、長期滞在パス(雇用パス等)保有者
     (1)渡航先を問わず、シンガポールに帰国する者は全員、政府指定の施設での14日間のSHNの対象とする。
     (2)上記に加え、長期滞在パス保有者は、シンガポールへの渡航前に、所轄官庁の事前の許可を得る必要がある。雇用パス保有者及びその家族等の場合、雇用者の責任において、事前に人材省(MOM)の許可を得ることとされている。現在、このMOMの許可が得られるケースは極めて限定的であり、現在シンガポール国外にいる雇用パス保有者の多くは、当面シンガポールに再入国することが見込めない状況にある。
     (3)さらに、入国前に健康状態申告書(health declaration)を提出する必要がある。
  2. 2. 旅行者、出張者等の短期滞在者
     全ての入国及び乗継ぎを禁止。

 

circuit breakerと関連法令

  1. ・ 4月7日から5月4日までの間実施されるcircuit breaker措置の内容は、大要以下のとおりである。
     (ⅰ)生活必需品の調達、生活必需サービスへの従事、(1人又は同居者との)屋外での運動、その他一定の例外を除いて、自宅に滞在すること。
     (ⅱ)同居者以外の者との物理的会合は禁止。
     (ⅲ)例外的に外出が認められる場合でも、他人と1メートル以上の距離を設ける。また、マスク着用する。
     (ⅳ)住居や生活必需サービス拠点を除き、あらゆる施設(商業、娯楽、スポーツ施設等)の閉鎖。
     (ⅴ)一定の生活必需サービス(政府機関や生活必需品小売店等)以外の事業は、事業場を全て閉鎖し、自宅でのリモートワークのみ可(例外的に事業場を開ける必要のある場合には、当局の個別許可が必要。オンラインで申請可能である。)。
  2. ・ 4月7日、COVID-19暫定措置法が成立した。同法は、一定の契約の一時的な履行猶予等、各種倒産手続き開始要件の一時的緩和、法令上の会議開催や裁判手続きにおける臨時措置、不動産税減免に関する取扱い(減免分を借主に還元)、MOH大臣の権限で感染拡大防止措置に関する強制力ある規則を制定できる旨等を定める。 
  3. ・ 同日付けで、MOH大臣によりCOVID-19 (Temporary Measures) (Control Order) Regulations 2020が制定され、その後も随時アップデートされている。COVID-19暫定措置法の下位規則として、4月7日から5月4日までの間、上記circuit breaker措置の遵守を求めるものである。同規則の違反は罰則の対象となる(法定刑は、1回目の違反の場合、10,000シンガポールドル(約76万円)以下の罰金若しくは6か月以下の懲役又はこれらの併科。2回目以降の違反の場合、20,000シンガポールドル以下の罰金若しくは12か月以下の懲役又はこれらの併科。)。

 

その他

  1. ・ 当局のウェブサイトにおいて、各感染者の属性や既確認感染者とのリンク等の情報が比較的詳細に公開されている。また、登録者には、政府より1日数回SNSを通じ、その日の新規感染者数、感染拡大防止措置の呼びかけ、その他最新情報が配信される。
  2. ・ Trace Togetherという接触者管理のためのスマートフォンアプリが政府により開発、公開されている。アプリをダウンロードした端末間のBluetooth通信によりアプリ利用者の接触を記録し、アプリ利用者が感染した場合には、政府が当該記録を辿って過去の接触者に所要の連絡をとることが想定されている。
  3. ・ 3月25日より、感染症法(Infectious Diseases Act)の下位規則であるInfectious Diseases (COVID-19 – Stay Orders) Regulations 2020が施行されている。SHNの不遵守に罰則(10,000シンガポールドル(約76万円)以下の罰金若しくは6か月以下の懲役又はこれらの併科)が設けられている。
  4. ・ 会計企業規制庁(ACRA)より、(ⅰ)4月16日から7月31日までに年次株主総会を開催すべき会社に60日間の期限猶予、(ⅱ)5月1日から8月31日までに年次報告書を提出すべき会社に60日間の期限猶予がそれぞれ認められている。
  5. ・ MOMは、上記circuit breaker措置に違反した外国人の雇用パスを取り消し、今後シンガポールでの就労を永久に禁止する旨の処分を行った旨を発表した(4月12日)。
  6. ・ 上記circuit breaker措置の違反について、6,200件以上の警告が実際に発せられ、また500件以上の罰金が実際に科されている(4月14日)。

 

(さかした・ゆたか)

2007年に長島・大野・常松法律事務所に入所し、クロスボーダー案件を含む多業種にわたるM&A、事業再生案件等に従事。2015年よりシンガポールを拠点とし、アジア各国におけるM&Aその他種々の企業法務に関するアドバイスを行っている。

慶應義塾大学法学部法律学科卒業、Duke University, The Fuqua School of Business卒業(MBA)。日本及び米国カリフォルニア州の弁護士資格を有する。

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

長島・大野・常松法律事務所は、約500名の弁護士が所属する日本有数の総合法律事務所です。企業法務におけるあらゆる分野のリーガルサービスをワンストップで提供し、国内案件及び国際案件の双方に豊富な経験と実績を有しています。

当事務所は、東京、ニューヨーク、シンガポール、バンコク、ホーチミン、ハノイ及び上海にオフィスを構えるほか、ジャカルタに現地デスクを設け、北京にも弁護士を派遣しています。また、東京オフィス内には、日本企業によるアジア地域への進出や業務展開を支援する「アジアプラクティスグループ(APG)」及び「中国プラクティスグループ(CPG)」が組織されています。当事務所は、国内外の拠点で執務する弁護士が緊密な連携を図り、更に現地の有力な法律事務所との提携及び協力関係も活かして、特定の国・地域に限定されない総合的なリーガルサービスを提供しています。

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