インドネシア:2020年重要法令の展望――オムニバス法は機能するか(1)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 前 川 陽 一
1. 第2期ジョコウィ政権の発足
2019年4月に行われたインドネシアの大統領選挙は、大方の予想通り、現職のジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)氏が対抗馬のプラボウォ・スビアント氏に10ポイントほどの差をつけ、2期目の当選を果たした。インドネシアの現行憲法では、大統領の任期は1期5年で、三選は許容されていない。したがって、ジョコウィ大統領の任期は2024年までとなる。
ジャカルタ州知事を任期途中で辞任して、2014年の大統領選挙に勝利したジョコウィ氏は、ジャカルタ州知事とそれに先立つソロ市長時代に発揮したリーダーシップに加え、これまでインドネシア政治を支配していた名門政治家一族や軍閥を支持基盤としない、庶民派でクリーンなイメージを背景に国民の広い層にわたって支持を得ていた。
他方で、第1期ジョコウィ政権の5年間における経済成長率は、最も高かった年でも5.1%(2018年)にすぎず、国民の豊かさへの期待に十分に応えられていないとの指摘も否めない。また、この5年間で国内における宗教的保守派と穏健派との間の対立は進行している。2019年5月の大統領選挙結果の公表を受けて、ジョコウィ氏の再選に不満を持つ保守派の一部による激しいデモが首都中心部で発生したことは、第2期ジョコウィ政権の多難な船出を暗示するものでもあった。
こうした状況の中で、ジョコウィ大統領は、2019年10月、第2期政権の組閣にあたって、重要ポストである国防大臣に大統領選挙を二度争ったプラボウォ氏を起用、同氏が党首を務めるグリンドラ党は野党から一転与党となった。これにより、ジョコウィ政権は国会において圧倒的多数派を掌握することとなり、安定した政治基盤のもとに政権運営を進めることが可能になったといえる。
2. ジョコウィ政権の経済政策
ジョコウィ大統領は、2014年の大統領就任時に、世界銀行が毎年発表しているビジネス環境ランキング(Ease of Doing Business Ranking)で40位以内に入ることを目標に掲げ(2014年:120位)、投資環境の整備に力を注いできた。投資許認可にかかる窓口業務を一元化するワンストップ・サービス・センターの設置(2015年)、一定の条件を満たす投資に対して3時間で投資許可を発行する3時間サービスの開始(2015年)、ネガティブリストの改正(2016年)、オンラインでの統合的な許認可申請を可能にするオンライン・シングル・サブミッション(OSS)システムの導入(2018年)などである。これらの施策は、複数の省庁にまたがり、重複することもある許認可手続を簡素化することにより、外国からの投資を呼び込もうとする意図に基づくものであった。このような努力の成果もあってか、インドネシアのビジネス環境ランキングは、2019年には73位にまで上昇した。しかし、政権の目標であった40位以内には遠く及ばず、マレーシア(12位)やタイ(21位)との差も未だ大きい。
(2)につづく