SH3867 ベトナム:新労働法による変更点⑬ 年次有給休暇日数の算出(1) 井上皓子(2022/01/06)

そのほか労働法

ベトナム:新労働法による変更点⑬
年次有給休暇日数の算出(1)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 井 上 皓 子

 

 今回は、新労働法及びその施行規則である政令145/2020/NÐ-CP(2021年2月1日施行、以下「新政令」)における年次有給休暇の旧法令からの改正内容についてご説明します。

 

1 有給休暇日数計算にあたり勤務年数に算入される日

 有給休暇は、勤続12か月以上の者は少なくとも年間12日、12か月未満の者は1か月に1日付与され、勤務年数が長くなると有給休暇の日数もそれに応じて増えていきます。勤務年数は、ベトナム語では「労働した期間」という表現で規定されており、原則として、実際に労働をした期間が計算の対象となります。しかし、一定の場合には、労働していない期間も算入されます。新政令はこの点について若干の修正と明確化を行いました。

 

No. 対象 労働期間に算入される期間 改正点等コメント

1.

職業学習・職業実習

職業学習・職業実習の期間。ただし、職業学習・職業実習の期間が終了した後、労働者が使用者の下で労働に従事すること。

職業学習・職業実習の期間が終了した後正式採用された場合は、実習期間も勤務年数に算入する必要がある。新政令では、採用されなかった場合はその期間が算入されないことを確認する文言が追加された。

2.

試用期間

 

試用期間。ただし、試用期間満了後、労働者が引き続き労働に従事すること。

職業学習等と同様に、試用期間後に正式採用された場合に限り、試用期間が勤務年数に算入されることを明確化した。

3.

慶弔休暇

法第115条第1項に定める慶弔休暇の期間

変更なし。法に定める慶弔休暇の期間は、勤務年数に算入される。

4.

使用者が同意した無給休暇

使用者が同意した無給休暇の期間。ただし、年間で合計1か月を超えてはならない。

無給休暇の日数も勤務年数に算入することができる。新政令では、算入することのできる無給休暇の上限を1年間に1か月までとした。なお、無給休暇の日数自体に法令上の制限はない。

5.

労働災害・職業病のための休職

休職期間。ただし、合計6か月まで。

変更なし。
なお、労働災害の場合であっても、その治療期間が連続して6か月(有期雇用契約の場合。契約期間が1年未満の場合は契約期間の1/2)又は12か月(無期雇用契約の場合)を超えてなお復職できない場合は、解雇が可能。

6.

私傷病休職

休職期間。ただし、年間で合計2か月を超えてはならない。

旧政令下では2か月とされていたが、新政令では「1年間に」2か月までという点が明確にされた。

7.

産休期間

産休期間

変更なし

8.

組合活動のための休業時間

法律の定めるところにより労働期間として計算される、基礎レベル労働者代表組織の業務を遂行する時間

新労働法の基礎レベル労働者代表組織に関する規定の改正に対応し、組合以外の活動も追記された。

9.

使用者の故意・過失によらない休業

休業期間

変更なし

10.

懲戒処分調査のための業務の一時停止

業務が停止された期間。ただし、懲戒処分調査の結果、労働者の違反がなく、又は労働者が労働規律処分を受けないこと。

新政令で下線部追記。調査の結果、懲戒処分妥当との判断に至った場合、勤務年数に算入されない。

11.

留置・勾留の期間

規定なし(原則どおり算入しない)

旧政令下では、無罪となって復職した場合は労働期間に算入されるとしていたが、削除された。

 

(2)につづく

 


この他のアジア法務情報はこちらから

 

(いのうえ・あきこ)

2008年東京大学法学部卒業。2010年東京大学法科大学院修了。2011年弁護士登録(第一東京弁護士会)。2018年より、長島・大野・常松法律事務所ハノイ・オフィス勤務。
日本企業によるベトナムへの事業進出、人事労務等、現地における企業活動に関する法務サポートを行っている。

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

長島・大野・常松法律事務所は、約500名の弁護士が所属する日本有数の総合法律事務所です。企業法務におけるあらゆる分野のリーガルサービスをワンストップで提供し、国内案件及び国際案件の双方に豊富な経験と実績を有しています。

当事務所は、東京、ニューヨーク、シンガポール、バンコク、ホーチミン、ハノイ及び上海にオフィスを構えるほか、ジャカルタに現地デスクを設け、北京にも弁護士を派遣しています。また、東京オフィス内には、日本企業によるアジア地域への進出や業務展開を支援する「アジアプラクティスグループ(APG)」及び「中国プラクティスグループ(CPG)」が組織されています。当事務所は、国内外の拠点で執務する弁護士が緊密な連携を図り、更に現地の有力な法律事務所との提携及び協力関係も活かして、特定の国・地域に限定されない総合的なリーガルサービスを提供しています。

詳しくは、こちらをご覧ください。

 

タイトルとURLをコピーしました