☆シンガポール:新型コロナウイルスの影響まとめ(速報) 坂下 大(2020/05/29)

2020年5月28日号
シンガポール:新型コロナウイルスの影響まとめ(速報)

                                                                                長島・大野・常松法律事務所

弁護士 坂 下   大

はじめに

 緊急事態宣言の全面解除により、国内の経済活動は今後段階的に再開される見通しとなりましたが、政府・自治体からは引き続き感染拡大防止に向けた企業努力の継続が要請されており、国境を越えた移動については依然として厳しい制限が課されています。海外でも、欧米を中心に外出自粛等の対策措置の段階的緩和が開始される一方で、大型の倒産案件は増加傾向にあり、世界経済へのダメージの長期化・深刻化は避けられない見通しです。

 本記事では速報ベースで各国の方針や影響拡大状況の概要につきお知らせ致します。なお、本記事は感染拡大が続く間、不定期に配信していきたいと思いますが、同感染症の拡大状況については日々状況が変化している中、本記事の内容がその後変更・更新されている可能性については十分ご留意の上参照ください。本記事の内容は、特段記載のない限り、日本時間2020年5月27日夜時点で判明している情報に基づいています。

 

全体概況  死亡者:23人、感染者数(累計):32,343人(5月26日現在)

 シンガポールでは引き続き外国人労働者の宿泊施設等において1日あたり数百人規模の感染確認が続いているが、これらを除いた市中感染は、最近では1日あたり1桁の人数に落ち着いている。現在適用されているcircuit breakerと呼ばれる感染拡大防止措置は6月1日で終了し、その後は段階的に種々の制限が緩和されることが発表されている。

 

主な政府発表

  1. ・ 保健省(MOH)による、Disease Outbreak Response System Condition(DORSCON)と呼ばれる感染指標に基づくリスクレベルのオレンジへの引き上げ(2月7日)
  2. ・ 政府タスクフォースよる、国内における感染拡大防止措置の更なる厳格化の発表(3月24日)
  3. ・ 外出禁止措置(Stay Home Notice:SHN)不遵守に対する罰則等を定めた感染症法の下位規則の施行(3月25日)
  4. ・ circuit breaker措置の開始(4月7日)
  5. ・ COVID-19暫定措置法(COVID-19 (Temporary Measures) Act 2020)の成立(4月7日)
  6. ・ circuit breaker措置を6月1日まで延長することを発表(4月21日)
  7. ・ circuit breaker措置の段階的緩和を発表(5月2日、19日)

 

渡航情報

  1. 1. シンガポール国民、永住者、長期滞在パス(雇用パス等)保有者
  2. (1) 渡航先を問わず、シンガポールに帰国する者は全員、政府指定の施設での14日間のSHNの対象とする。
  3. (2) 上記に加え、長期滞在パス保有者は、シンガポールへの渡航前に、所轄官庁の事前の許可を得る必要がある。雇用パス保有者及びその家族等の場合、雇用者の責任において、事前に人材省(MOM)の許可を得ることとされている。現在、このMOMの許可が得られるケースは極めて限定的であり、現在シンガポール国外にいる雇用パス保有者の多くは、当面シンガポールに再入国することが見込めない状況にある。
  4. (3) さらに、入国前に健康状態申告書(health declaration)を提出する必要がある。
  5.  
  6. 2. 旅行者、出張者等の短期滞在者
  7.   全ての入国及び乗継ぎを禁止。circuit breaker措置終了後(6月2日以降)、乗継ぎは一定の条件下で認められる見込み。

 

circuit breakerの終了とその後

  1. ・ 4月7日から6月1日までの間実施されるcircuit breaker措置の内容は、大要以下のとおりである。
  2. (ⅰ) 生活必需品の調達、生活必需サービスへの従事、(1人又は同居者との)屋外での運動、その他一定の例外を除いて、自宅に滞在すること。
  3. (ⅱ) 同居者以外の者との物理的会合は禁止。
  4. (ⅲ) 例外的に外出が認められる場合でも、他人と1メートル以上の距離を設ける。また、マスクを着用する。
  5. (ⅳ) 住居や生活必需サービス拠点を除き、あらゆる施設(商業、娯楽、スポーツ施設等)の閉鎖。
  6. (ⅴ) 一定の生活必需サービス(政府機関や生活必需品小売店、サービス提供者等)以外の事業は、事業場を全て閉鎖し、自宅でのリモートワークのみ可。(例外的に事業場を開ける必要のある場合には、当局の個別許可が必要。)
  7. ・ 6月2日以降は、段階的に上記circuit breaker措置が緩和されることが想定されている。かかる段階的緩和は3段階に分けられ、6月2日から開始する第1段階においては、(既に営業が認められている生活必需サービスに加えて)一定の業種のオフィスの再開が一定の条件の下で認められ、また、学校も部分的に再開する。もっとも、この段階では、人々の原則的な接触禁止は概ね維持され、また飲食店の店舗内営業(持帰り、配達を除く。)や娯楽施設の営業も引き続き禁止される。現時点では、この第1段階の制限緩和期間は数週間程度継続することが想定されており、当該期間中における感染状況が安定していれば、第2段階の制限緩和に移行し、さらに広範囲の業種にわたるオフィス再開、学校のほぼ全面的な再開、飲食店の店舗内営業、小規模な集会、イベント等が認められることとなる見込みである。その後も感染状況に配慮しつつ徐々に各種制限が緩和されることが想定されているが、緩和の最終段階(’Safe Nation’と呼ばれる第3段階)にあっても、集会、イベントにおける人数制限等は引き続き行われる見込みであり、このような制限はCOVID-19のワクチンや治療法が確立されるまで継続するとされている。
  8. ・ 上記のとおり、6月2日以降、一定の業種についてはオフィスを再開できることになるが、現行の在宅勤務を可能とする態勢は引き続き維持し、従業員のオフィスへの出入りはその明らかな必要性がある場合に限るべきとされている。また、オフィス再開にあたっては、一定の接触機会防止措置、従業員、来訪者のオフィス出入りの記録、マスク着用の義務化、衛生的環境の保持、体温チェック等の措置をとる必要があり、またこれらを実効的に行うためのプラン策定や、Safe Management Officerの選任等が必要となる。また、オフィス再開から2週間以内に当局への所要の報告が必要である。

 

COVID-19暫定措置法

  1. ・ 4月7日、COVID-19暫定措置法が成立した。同法は、一定の契約の不履行に関する一時的な救済措置、各種倒産手続開始要件の一時的緩和、法令上の会議開催や裁判手続における臨時措置、不動産税減免に関する取扱い(減免分を借主に還元)、MOH大臣の権限で感染拡大防止措置に関する強制力ある規則を制定できる旨等を定める。
  2. ・ COVID-19暫定措置法において、2020年3月24日以前に締結又は更新された(ⅰ)中小企業向けの一定の担保付ローンに係る契約、(ⅱ)工場、機械設備、商用車に係る割賦販売契約又は条件付売買契約、(ⅲ)イベント契約、(ⅳ)観光関連契約、(ⅴ)建設契約、建設資材供給契約等、(ⅵ)非居住用不動産に係るリース契約等の不履行に一定の救済措置が定められている。2020年2月1日以降に履行期が到来する対象契約上の義務の履行ができず、その不履行がCOVID-19を重要な理由とするものである場合において、不履行当事者が相手方当事者等に所定の通知を行ったときは、相手方当事者は、一定期間、裁判や仲裁による権利行使、担保権の実行、倒産関連手続の申立て、対象契約の目的資産の占有回復等が禁止される。
 

その他

  1. ・ 当局のウェブサイトにおいて、各感染者の属性や既確認感染者とのリンク等の情報が比較的詳細に公開されている。また、登録者には、政府より1日数回SNSを通じ、その日の新規感染者数、感染拡大防止措置の呼びかけ、その他最新情報が配信される。
  2. ・ Trace Togetherという接触者管理のためのスマートフォンアプリが政府により開発、公開されている。アプリをダウンロードした端末間のBluetooth通信によりアプリ利用者の接触を記録し、アプリ利用者が感染した場合には、政府が当該記録を辿って過去の接触者に所要の連絡をとることが想定されている。
  3. ・ 会計企業規制庁(ACRA)より、(ⅰ)4月16日から7月31日までに年次株主総会を開催すべき会社に60日間の期限猶予、(ⅱ)5月1日から8月31日までに年次報告書を提出すべき会社に60日間の期限猶予がそれぞれ認められている。
  4. ・ Jobs Support Schemeとよばれる施策により、シンガポール国民又は永住者たる一定の労働者等の9か月分の給与(月給4,600シンガポールドルまでの部分。)の25%から75%(割合は産業セクターにより異なる。4月及び5月分は一律75%。)が政府から使用者に助成される。
  5. ・ 3月12日以降に労働者の給与に影響を及ぼすコスト削減策を講じた一定の使用者は、MOMにその旨を通知する必要がある。

 

(さかした・ゆたか)

2007年に長島・大野・常松法律事務所に入所し、クロスボーダー案件を含む多業種にわたるM&A、事業再生案件等に従事。2015年よりシンガポールを拠点とし、アジア各国におけるM&Aその他種々の企業法務に関するアドバイスを行っている。

慶應義塾大学法学部法律学科卒業、Duke University, The Fuqua School of Business卒業(MBA)。日本及び米国カリフォルニア州の弁護士資格を有する。

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

長島・大野・常松法律事務所は、約500名の弁護士が所属する日本有数の総合法律事務所です。企業法務におけるあらゆる分野のリーガルサービスをワンストップで提供し、国内案件及び国際案件の双方に豊富な経験と実績を有しています。

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