ベトナム:労働法Q&A Covid 19と労働問題に関するオフィシャルレター②
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 井 上 皓 子
2 労働契約とは異なる業務への異動
ベトナムにおいては、原則として労働契約と異なる業務への異動には労働者との個別の合意が必要となります。しかし、労働法31条は、疫病等の場合に労働者を一時的に他の業務に異動させることができると規定しており、公文書1064は、この規定をCOVID-19の影響による原材料不足等により通常通り仕事を割り当てることができない場合にも適用できるとしています。
この場合の賃金は、当初30日間は元の業務の賃金に対応する額である必要がありますが、その後は、地域別最低賃金額を下回らない範囲内で、元の業務の賃金の少なくとも85%で足ります。ただし、労働法上は、原則として異動は年間60営業日までとされており、60日を超える場合は、異動につき労働者との個別の同意が必要です。影響が長期化しそうな現状において、この60日間の要件が緩和されるというような見解は、今のところ出されていません。
3 労働契約の一時停止
労働法32条は、両当事者が合意した場合に労働契約の一時停止ができるとしています。公文書1064は、COVID-19により使用者の賃金支払能力に影響が出た場合、この規定を使って労働者と合意のうえ労働契約を一時的に停止することができるとしています。
停止日数や復職条件については、法律上特に規定はなく、労働者との合意によることになります。労働契約停止中の賃金については、法律上の規定はなく、労働者との合意によるものと考えられますが、合意ができれば賃金を支払う義務はないと考えられます。
実際には、これらの全てについて労働者と個別に合意することが必要になるため、出勤が制限される現状において使い勝手がよいとはいえないように思われますが、最終的な解雇等があり得るところ雇用を維持する代わりの措置だということを根気強く説得すれば、応じてくれる労働者も出てくるかもしれません。
なお、政府は2020年4月9日付で決議第42/NQ-CP号を発行しており、これによれば、1か月以上無給で休職となり又は雇用契約の一時停止となった労働者は、最長3か月(2020年4月から2020年6月まで)の期間、1月当たり180万ドンの支給を受けられることになります。
4 解雇
公文書1064は、COVID-19の影響により生産縮小、事業の縮小をせざるを得ない場合は、労働法に従った解雇の可能性があることに言及しています。
労働法38条1項c号は、天災等の不可抗力により雇用者が全ての必要な克服措置を実行したが、やむを得ず生産規模の縮小や人員削減を行う場合には、雇用者が労働者を解雇することができるとしています。COVID-19の影響で事業活動の改善が見えず、可能な限り全ての必要な克服装置を講じてもなお生産及び雇用の削減を余儀なくされる場合は、この規定に従って労働者を解雇することが可能となる余地があります。この場合、無期労働契約の労働者については45日、通常の有期労働契約の労働者については30日、12か月未満の有期労働契約の労働者については3日前までに事前通知を行う必要があります。ただし、「可能な限り全ての克服措置を講じた」という要件は、一般的にはハードルが高く、また、それが認められるほど措置を尽くすためには時間も要するため、直ちには使いづらい可能性があります。
また、会社において組織変更や事業縮小が必要となった場合や経済が不況に陥った場合、労働法第44条に従い、労働者使用計画を作成し、30日前までに省級の労働管理機関に対して届出を行うことにより、2人以上の労働者の普通解雇を行うことができます。労働者使用計画の作成にあたっては、労働組合(社内組合がない場合はその上部組合)との協議も必要になり、全ての手続きを完了させるために2~3か月ほど要することもあります。