◇SH0031◇企業法務よしなしごと-ある企業法務人の蹣跚3 平田政和(2014/07/11)

そのほか法務組織運営、法務業界

         (第3号)

企業法務よしなしごと

・・・ある企業法務人の蹣跚(まんさん)・・・

平 田 政 和

【企業法務と私】(その2)

 (前号より)

 私が大手合成繊維メーカーに入社した当時は、多くの会社がそうであったように、法務を全般的にかつ専門的に担当する部署はなかった。①株主総会・取締役会・社内規定等企業組織に関する問題は文書部あるいは総務部文書課、②営業部門・生産部門等各部門それぞれの業務に関連する法務はそれぞれの部門のスタッフ部署(例えば繊維事業企画管理部、生産管理部といった名称の組織)、③外国企業からの技術導入や合弁会社設立等は企画部といった名称の全社的なスタッフ組織、が担当していた。④債権の保全や回収業務は私が入社した会社では営業部門のスタッフ部署が担当していたが、経理部や財務部といった部署が担当していた会社が多かったのではないかと思っている。

 企業法務と私の係わりは次のようなものだった。新入社員教育が終わると直ぐに、その当時会社の事業の中心を占めていた合成繊維事業部門のスタッフ部署に配属され、そこで合成繊維事業に直接、間接に関連する法務問題、特に販売取引・委託加工取引に関する法務問題を担当することになった。

 具体的には①自社が生産する合成繊維糸や合成繊維綿の販売、②下請事業者を使った織物製造や染色加工、③さらにはこれらの物流、④根抵当権・根譲渡担保権・根保証などの担保の取得を中心とする債権の保全に関する契約書の立案やその実施・実行、⑤倒産処理も含んだ債権回収などの業務などであった。入社後20数年間に会社や子会社が関係した取引先倒産や更生案件の全てに関与した。

 これらの業務と関係のある⑥下請事業者に対する資金融資、下請事業者の金融機関からの借り入れに対する支払保証や操業保証などに関する契約も担当した。⑦この頃は縫製品について著名ブランドを有する外国の会社と縫製について技術提携するとともにそのブランドの使用許諾を得て国内で製造された製品をそのブランドで販売したり、外国著名ゴルファーその他の著名人と契約し、その名称やロゴを使用したりすることも多く、これらに関係する契約のほとんど全てを担当した。

 企業活動の中心になっている事業の生産、販売やこれらに関連する業務についての契約書の立案・検討や法務面での対応を最初に担当したことは、その後の各種の法務問題を担当するに際しとても役に立ったと思っている。

 その後、全社的に企業法務を担当する部署である法務室(当初)が組織され、そこに異動してからは、⑧各種合成繊維製品やプラスチック製品の製造についての技術導入・技術輸出、⑨国内外での子会社・合弁会社の設立・解散、⑩国内外での工場用地取得や種々の方法による企業の買収、⑪日本、米国、EUでの独占禁止法関係の対応や手続など、日本の大手メーカーが直接あるいは間接に関係するであろう法律関係業務を一通り経験した。

 また、⑫東芝機械ココム事件に関連して新設された輸出管理室の初代室長として組織の立ち上げ、業界団体の取り纏め、関係官庁との折衝など安全保障貿易管理を中心とする輸出管理業務全般や、⑬審査室長として日本を代表する大手総合商社や大手メーカーから年商数億円の縫製業者や下請加工企業まで多岐にわたる取引先についての与信管理業務も経験した。

 更に、法務部の責任者業務との兼務ではあったが、⑭10年近く、知的財産権の活用や侵害排除といった業務を中心に知的財産部門の業務も経験した。⑮想定問答検討や答弁補助者業務が中心であったが若干の株主総会関係業務についても数年間協力した。

 「メーカーの法務マンとしてはほとんどの種類の仕事をした。やっていないのは監査関係の業務だけ」と思っていた頃、これも兼務ではあったが、⑮監査室長として社内監査業務も担当し、⑯その後上場会社の常勤社外監査役の職務を担当した。

 ⑰なお、これらの業務や職務との関係で海外出張もした。この数字が普通なのかどうかは寡聞にして知らないが、手元に残っている古いパスポートの出入国記録によると1974年を皮切りに2006年まで合計61回435日、平均7日の海外出張をしている。日曜日に出国し、翌週の土曜日に帰国するというのが一般的だったから、この結果は予想したとおりだった。一番長いのは複数のインドネシア子会社の資金対策としてtreasury stockの導入を検討したジャカルタへの23日の出張で、それに次ぐのは欧州労使協議会設立契約交渉でイギリス・ドイツ・フランス・イタリア各国の子会社を二巡した出張で19日間だった。逆に一番短いのは韓国(ソウル)、中国(上海)、シンガポールへの2泊3日の出張だった。

  次号以下では、これら経験から得られた所感を中心に若い企業法務パーソンにエールを送ることとする。

(以上)

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