銀行員30年、弁護士20年
第13回 銀行は担保に金を貸すのではない
弁護士 浜 中 善 彦
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銀行は、担保に金を貸すと思っている人は少なくない。以前、弁護士会の役員と雑談をしているとき、銀行は担保に金を貸すといわれたので、銀行は担保に金を貸すのではありませんといったところ、いや、絶対に担保に金を貸すのだといわれた。まるっきり銀行員経験のない人から、銀行員30年の経験者に向かって「絶対」といわれては議論にもならないので、それ以上議論はしなかったが、担保に金を貸すのは質屋であって銀行ではありませんと答えた。
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銀行の貸金は、短期貸付金と長期貸付金がある。
短期貸付金は返済期限が1年以内の貸付金であり、決算資金、賞与資金等がその典型例である。これらはいずれも無担保貸出である。長期貸付金は返済期限が1年超の貸出金であり、これには、長期運転資金と設備資金がある。長期運転資金は、恒常的に必要な運転資金である。この場合は担保付きが普通である。この場合の担保は、譲渡担保手形か有価証券、あるいは売掛債権等である。いま一つは、設備資金貸出である。この場合の担保は不動産である。先の弁護士の担保に対する貸出という意味は、おそらく、設備資金貸出のことだろうと思われる。新規設備投資または設備増強等の場合の担保は、当該設備ではなく、既存の不動産を担保にとる。借入れ目的の設備を担保にとるのは持込み担保といって、住宅ローンがその典型であるが、これはきわめて例外的な場合である。
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このように、銀行の有担保貸出は長期貸付金の場合であり、短期貸付金は無担保が原則である。しかし、担保があれば長期運転資金や設備資金貸出をするかといえばそうではない。銀行が貸出をするのは担保に貸出をするのではなく、貸出先の信用に対して貸出をするのである。信用とは、企業でいえば、業歴、業績、業界地位等である。それだけではなく、当該貸出を収益弁済ができるかどうかである。いかに業歴が古く、担保があろうとも、収益弁済が見込めない場合は貸出はできない。
このように、銀行は担保に金を貸すのではない。しかし、先の弁護士がいうように、銀行が質屋同様担保に金を貸した時代があったことも事実である。それは、バブル期の銀行がそうであった。各銀行とも収益競争に走るあまり、都内に不動産を所有する個人にまで、土地の時価一杯に、貸しビルやマンション事業資金を貸し付けたのがその典型例である。銀行が担保不動産をとる場合、たとえば、土地の場合時価の70%(7掛け)というふうに、時価一杯に担保価値を見ることはしないのが原則である。しかし、バブル期の銀行はその原則を無視して時価一杯に貸金をすることが少なくなかった。また、担保があるからといって、個人に貸しビルやマンション経営を勧めるのもどうかしている。貸しビルやマンション業は不動産業であり、不動産があるからといって素人ができるわけではない。そういう意味では、単なる営利事業ではない、ある意味で公益的事業である銀行が、その原則を忘れて、質屋の真似をしたために、公的資金で救済を求めざるを得なくなったのである。
私の銀行員時代、ある頭取が銀行の目標として収益第一主義といい出したのに驚いた記憶がある。それではまるでサラ金と同じではないかと思ったのである。それ以降、各支店とも、業績追求に走るあまり、多額の不良債権を抱えることになった。トップの経営判断の間違いで、100年以上かかって築いた信用を瞬く間にどぶに捨ててしまったのである。
以上