(第18号)
企業法務よしなしごと
・・・ある企業法務人の蹣跚・・・
平 田 政 和
Ⅱ.Sophomoreのために・・・勉強しよう、「知らない」ということを知ろう(その5)
【調べた結果はきっちりと纏める】
「調べた結果はきっちりと纏めなさい」。これは入社後10年近くの年数が経ち、会社の仕事にも慣れた頃の顧問弁護士の教えである。第一次オイルショックの頃であったが、売買基本契約書中の事情変更についての条項と供給義務・契約変更権・解約権などについて、私が調べた結果をご報告し、ご意見を伺った折のことだった。
話が一段落し、上等のウイスキーがたっぷりと入った紅茶を前に、顧問弁護士は次のように言われた。「会社の仕事ではいろんな問題やトラブルに対応することになるでしょう。そのつど専門書を読み、専門誌の論文や判例を調べ、深く検討するでしょう。そして、何らかの結論を出すでしょう。その調べたことを中途半端な形で止めておかずに、きっちりと纏めて、徹底して自分のものにしなさい。これを積み重ねなさい。」。
そして書棚から大正15年発行の古色蒼然とした勝本正晃著「民法に於ける事情変更の原則」を取り出して私に貸して下さった。40年を経た今でもこのときの情景がありありと思い出される。
その時は、この教えに従おうと固く心に誓ったのだが、いざ実行となると難しい。日々の業務や新しく発生する問題に対応するために毎日残業をし、時には休日出勤もする、という日常では結論の出た問題に時間を割くことは二の次三の次になる。その内に忘れる。自分以外の誰も催促したり思い出させたりはしてくれない。今になって、どうして寝る時間を削ってでも、不満足な状態であってでも纏めておかなかったのか、と反省すること頻りである。
仕事からリタイアし、私が自己規律の意味で定めた私自身の企業法務についての知識の賞味期限が過ぎ、消費期限が近づきつつあると判断したときに、その時点で手元にあった企業法務に関係のある2,000冊ほどの書籍や雑誌のバックナンバーは思い出のある10数冊を残し全て処分した。
残した10数冊の中にはお亡くなりになった顧問弁護士の忠告を思い出させる1冊があり、今でも私の書棚の最も目に付く場所に置かれているが、顧問弁護士は天国から「あれだけ言ったのに、しょうのない人だ。」と苦笑されていることと思う。
(以上)