◇SH0126◇企業法務よしなしごと-ある企業法務人の蹣跚34 平田政和(2014/11/07)

そのほか法務組織運営、法務業界

(第34号)

企業法務よしなしごと

・・・ある企業法務人の蹣跚(まんさん)・・・

平 田 政 和

 

Ⅲ.Juniorのために・・・広い視野をもとう(その14)

【通訳を通しての契約交渉や法律調査に際しての留意点】(その1)

 

 欧米諸国や東南アジア各国の企業との契約交渉やこれらの国の法律の調査は、拙いながらも自分の英語で行うこととしていた。

 しかし、中国の企業や地方公共団体との契約交渉や役所に対する意見照会、ヒアリング等は中国語で行われる。少なくとも私の場合、あるエンジニアリング会社に対する技術供与契約交渉を除き、全てそうだった。この結果、これら契約交渉や法律調査については必然的に通訳を介することになる。

 通訳を通して契約交渉、調査をする場合に最も大切なことは「通訳をする人物に、事前に、“狙い”、“目的”を丁寧に説明し、理解させておくこと」である。

 当り前のことだがこれをしていない人は多い。私の周りのほとんどの人はキッチリとした事前打ち合わせをしていなかった。これらの人々は、通訳は自分の発した日本語を中国語に訳すだけでいい(そして相手方の中国語を日本語に直すだけでいい)、と考えていたに違いない。

 そして、自分の発する日本語が誤解の生じない正確な日本語であると信じていたに違いない。私はそのようなことはない、と思っている。言葉としては出てこない幾つかの前提を置いた発言や、舌足らずの発言もあるはずである。このような発言の意図を正確に理解して、通訳してもらうためには、通訳に対する事前の充分な説明が不可欠である。

 私は、通訳を基本的には私が属していた会社の北京事務所に勤務している日本語が堪能な、知的レベルも高い年配の男性社員に依頼していた。彼は社内の人間であるから、私の中国出張目的や私が担当しているプロジェクトの内容を十分に知悉していた。それでも、私は事前の説明や打ち合わせをきっちりと行っていた。

 彼の通訳は満足すべきものであったが、交渉する契約の内容や調査する目的をよく知っていることもあり、相手方が理屈に合わないことを言いだすとそれを通訳することなく、ときどきは通訳という立場を忘れて、私に代わって反論し始める。これには少し困った。

 スケジュールの関係で彼に通訳を頼むことができないときがあった。そこで、紹介を受けた中国に進出している日本の金融機関に勤めている中国人女性に通訳を依頼することとした。意見照会の相手は上海で外資を管理している部局の次官である。いつも私がしているように、通訳に「今日は、中国の子会社の増資ができるか否かを聞こうと思っている。」と事前に趣旨や私の疑問点を説明し始めた。彼女は私の説明の途中で「できますよ。」と簡単に言う。大人気ないが少しカチンときた。

 私は「あなたの『できる』との答えは、子会社がその事業で得た利益を使って増資する場合や親会社が新たに外資を持ち込んで増資をする場合のことを想定しているのでしょう。そのような場合に増資が可能なことは分かっています。私が聞きたいのは、親会社が中国で正当に得た利益であるが、中国の外資法上日本に送金できなくなった資金を使って子会社の増資をすることが可能かどうかです。」と言った。

 頭のよい人だったのだろう、すぐに「そのような場合は考えたことはありませんでした。」と詫び、「あなたの質問の趣旨は分かりました。」と答え、私の説明を聞き、メモし、狙いどおりきっちりとした通訳をしてくれた。(次号に続く)

(以上)

 

 

 

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