◇SH0109◇企業法務よしなしごと-ある企業法務人の蹣跚28 平田政和(2014/10/17)

そのほか法務組織運営、法務業界

(第28号)

企業法務よしなしごと

・・・ある企業法務人の蹣跚(まんさん)・・・

平 田 政 和

Ⅲ.Juniorのために・・・広い視野をもとう(その8)

【心を籠めて仕事をする】

 

 「心を籠めて仕事をする」。当たり前の話であるが、簡単な仕事であっても、慣れた仕事であっても心を籠めて行うことは、なかなか難しい。自分の仕事振りを振り返ると、意識的に手を抜くようなことはしたことはなく真面目に仕事に取り組んできたが、常に心を籠めてしてきたと言い切るには少し躊躇いがある。

 常に自らの仕事振りを振り返り、心を籠めた仕事をするように努めたいものだ。ある大きなプロジェクトの責任者であった経営トップが、そのプロジェクトでの私の仕事振りを「彼の仕事には心が籠っている」と評して下さったと上司から告げられたことがあるが、何よりの評価だと嬉しく思ったものである。

 気楽な雑談の折などに、私は若い法務部員に「心を籠めた仕事をしていると、神様が助けて下さる」と私の体験を話すことがある。

 米国の大手企業と日本において資本金60億円の合弁会社を設立するとともに同社に対しての両親会社からの技術援助契約や、同社製品の販売についての種々の契約が関係するプロジェクトを担当したときのことである。2年近くの交渉を経て最終案が纏まった。合弁基本契約書は添付される関連契約書を含めて300頁近くになった。

 明日は調印日という前日に相手方の法務部長から契約名義人の表示についてミドルネームをイニシャルだけの表示にして欲しいとの連絡が入った。契約名義人はいつもそのようにサインをするからだというのが理由だった。私は出来あがった合弁基本契約書の最終頁だけを新しくプリントアウトされたものに差し替え、修正内容を確認した上で、最終案を準備した。

 そして翌朝、調印セレモニーが予定されている経団連会館の会議室に持って行った。

 調印時刻の30分ほど前だっただろうか、私は「やっと調印にこぎつけた。長かったなあ。」と思いながら契約書のページをぺらぺらとめくった。前日までにきっちりとチェックをしていたという自信があったので、チェックする、という意識ではなかった。時間潰しという意味ではもちろんないが、何かをしていなければ落ち着くことができないような気分だったのだろう。

 契約書をぺらぺらとめくっている途中で、何かが引っかかった。ふと見るとサイン欄のある頁が修正前のものになっていた。慌ててもう片方の契約書を見るとちゃんと修正されている。前日には予備を含めて三枚プリントし、きっちりと確認したはずだが、違っていた。

 慌ててタクシーで会社に戻り正しく表示されたものをプリントアウトして間に合わせた。サイン欄の表示が異なっておれば全体の信用性も疑われる。背筋が寒くなった。今まで心を籠めて仕事をしてきたことを神様は見ておられ、このミスを教えて下さったものだと、今でも思っている。

 調印式が終わった後、相手方の交渉責任者に事情を話し、全文の再チェックを行ったことはいうまでもない。当然のことであるが、全く同一のものだった。初期の機械だったとはいえ、ワードプロセッサーを使ってプリントアウトし、アシスタントの女性と二人でチェックしつつ、注意深く差し替えたにも拘わらず、なぜこのようなことが起こったのかは今でも分からない。何がミスの原因だったのかは不明であるが、私は、神様が助けて下さった、と信じている。

(以上)

 

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