(第33号)
企業法務よしなしごと
・・・ある企業法務人の蹣跚・・・
平 田 政 和
Ⅲ.Juniorのために・・・広い視野をもとう(その13)
【“はやめ”の楽しみ】
私は企業法務に関する幾つかの研究会に参加しており、また企業法務の責任者の団体である経営法友会の幹事会のメンバーでもあった。これらの研究会や会議には、忙しい予定をやり繰りして、少し“はやめ”に出席するのが常だった。
研究会では始まる前に参加者同士が雑談の形でいろんな話をする。それぞれがその時点で関心を持っている企業法務関係のテーマや問題を話題にし、意見を述べたり、述べられた意見についての反論や対応策を話したりするので、自分が抱えている問題の解決についてのちょっとしたヒントになったり、新しい見方を知ったりすることができた。
大学教授が現在検討中の新規立法についての検討課題を差し支えない範囲で話してくれたり、弁護士がその時点で話題になっている訴訟について専門的立場から意見や見方を披露してくれたりもした。
ストレートに私の抱えている問題や対応について悩んでいる案件を話し、メンバーの意見を聞いたこともあった。これらの話を聞くために少し“はやめ”に出席しているようなものだった。
経営法友会幹事会のことを書こう。会議の始まる前の十数分間は、個人の立場で最近の法律問題に対して意見を言ったり、オフ・レコードということで新規立法に対する他社の対応方針を聞いたり、未だオープンにされていない関係官庁の行政指導の方針について話し合ったり、その折々でいろんな話題が飛び交った。
それぞれが信頼できる友人・仲間であったこともあり、極めて楽しく意義深い“はやめ”の十数分だった。
不正競争防止法が改正され、外国公務員に対する贈賄について規定された頃のことである。
ある会社の法務部長が「この規定は国外犯には適用できないんだよね。」と口火を切った。確かにそのとおりであるが、法律的には“共同共謀正犯”という考え方により利益供与等が国外で行われた場合でも、国内犯として処罰されることがありうる、と私は補足した。
別の会社の法務部長は「当社としては、微妙な事例はアメリカの弁護士の意見を聞こうと思っているんだ。それが一番だと思う。」と言った。日本の法律ではあるが改正の経緯を考えた場合、納得のゆく意見である。私はこのようなことを考えていなかったので「そういう考え方もあるんだ。」と納得した。
「相手先が中国の場合は特に注意する必要があるよ。我々の交渉相手はある意味で全て公務員と言っていいからね。」という発言もあった。
また、少額のfacilitation paymentに関しての具体的な事例の説明は実務の観点から参考になった。
法律条文を読むだけでは出てこない、幅の広い見方を知ることができるのが、“はやめ”の効用の一つだろう。社外の会議や同じ分野の専門家が集まる会議にはちょっと“はやめ”に出て、この効用を楽しみたいものだ。
(以上)