◇SH0110◇シンガポール:シンガポール会社法改正案の可決 長谷川良和(2014/10/20)

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シンガポール:シンガポール会社法改正案の可決

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 長谷川 良 和

 2014年10月8日、シンガポール会社法(「会社法」)改正案が可決された。この改正は、1967年の会社法成立以降で改正項目が最も多く、主として会社の法規制の負担を削減すると共に、会社のより柔軟な制度設計等を可能にし、コーポレートガバナンスを向上させることを意図している。法改正は、会社の設立、運営、M&A等に関係する事項も含め多岐に亘るが、本稿は、日系企業の関心が高いと思われる主な事項にポイントを絞って紹介する。

(1)  基本定款と附属定款の一本化

 改正法の下では、基本定款と附属定款が一本化され、定款という単一の文書となる。改正前に設立されていた会社の基本定款及び附属定款は、自動的に改正後の「定款」として読み替えられる。

(2)  居住住所に代わる住所登記の許容

 現行法では、取締役等は会社登記上で自身の居住住所の開示を義務づけられているが、改正法下では、居住住所又はその他の所在地住所のいずれかを選択できることになる。かかる代替住所の選択により、個人のプライバシー保護を図ることが可能となる。

(3)  通知及び文書の電子的方法による送信

 改正法の下では、手続の簡素化を図るため、定款に規定された特定の電子的方法により、会社は会議の通知及び株主宛の文書を電子的方法で送信できることになる。

(4)  非公開会社の株主名簿

 改正法の下では会計企業規制庁(ACRA)が電子的形態で非公開会社の株主名簿を維持することになる。非公開会社はACRA登記用に発行株式の所有や譲渡に関する情報等を提出することとなり、かかる情報提出日が株主名簿登録の効力発生日となる。

(5)  公開会社の一株一議決権の原則の緩和

 改正法は柔軟な資本政策を可能とするため、公開会社の株主総会決議を投票で行う場合の一株一議決権の原則と異なる内容を定款で定めることを認める(例えば、議決権制限株式や複数議決権株式)。もっとも、既存株主の不利益防止の観点から、一定のセーフガードを設けている。

(6)  間接投資家の議決権行使機会の拡大

 改正法の下では、ノミニーサービスを提供する銀行等や有価証券管理サービスを提供するキャピタルマーケッツサービスライセンスの保有者等が株式保有する場合、所定の条件の下、株主総会が投票で行われる場合の議決権の代理行使に係る代理人を3名以上選定可能となる。これにより、上記銀行等を通じて株式を間接保有する実質的受益者である間接投資家の議決権行使の機会が実質的に拡大すると見込まれている。

(7)  非公開会社の財務支援禁止規制の撤廃と公開会社での同規制の緩和

 現行法上、会社は、一定の例外を除き、自社又は持株会社の株式買収等に関し、貸付や担保又は保証の提供等の財務支援を行うことが禁止されている。改正法は、法規制の負担を軽減するため非公開会社に関しかかる規制を撤廃する。公開会社及びその子会社についてはかかる規制が存続するが、会社やその株主の利益又は債権者に対する支払能力に重大な悪影響が生じない場合に、かかる規制の例外とする旨の規定を改正法は新設している。

(8)  法定監査の免除対象範囲の拡大~「小規模会社」の導入

 改正法は、小規模会社の法規制負担削減のため、会社が以下の「小規模会社」の要件を満たす場合、会社法上の監査義務を免除することとし、法定監査の免除対象を拡大している。

<「小規模会社」の要件>

  1. (a) ある事業年度を通じて非公開会社であること
  2. (b) ある事業年度の直前2事業年度において以下の3項目のうち2項目以上を満たすこと
  3.   ① 当該事業年度の売上合計が1,000万シンガポールドル以下であること
  4.   ② 当該事業年度末における総資産価値が1,000万シンガポールドル以下であること
  5.   ③ 当該事業年度末における従業員数が50名以下であること

 もっとも、親会社又は子会社に該当する会社は、原則として監査免除の対象にならない。しかし、親会社又は子会社が前述の「小規模会社」に該当し、かつ以下の「小規模グループ」の一員である場合には、会社法上の監査義務を免除される。

<「小規模グループ」の要件>

 ある事業年度の直前2事業年度において、以下の3項目のうち2項目以上を満たすこと

  1. ① 当該事業年度における当該企業グループの連結ベースの売上合計が1,000万シンガポールドル以下であること
  2. ② 当該事業年度末における当該企業グループの連結ベースの総資産価値が1,000万シンガポールドル以下であること 
  3. ③ 当該事業年度末における企業グループの従業員数が合計50名以下であること

 なお、設立当初又は会社法改正の効力発生当初2事業年度には別途の規定が設けられている。

(9)  CEOによる会社の有価証券に係る利益及び利益相反の開示

 改定法では、取締役の開示規制とは別に、シンガポールの非上場会社のCEOが新たに会社の有価証券に係る自身又は家族の利益及び利益相反取引について開示規制に服することになる。

 

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