◇SH0122◇企業法務よしなしごと-ある企業法務人の蹣跚32 平田政和(2014/10/31)

そのほか法務組織運営、法務業界

(第32号)

企業法務よしなしごと

・・・ある企業法務人の蹣跚(まんさん)・・・

平 田 政 和

Ⅲ.Juniorのために・・・広い視野をもとう(その12)

 

【食事の効用】

 契約交渉は、会議の場で進行するだけではない。休憩の間の立ち話や交渉途中の会食の場でも進行する。これらの場を利用して妥協案を探ったり、相手方の本音を聞き出したりすることもある。

 私は、契約交渉の場における食事を大切に考えている。(本音を言うと、交渉相手との“横メシ”はとても苦手で、いくら高級料理であっても味が分からないのであるが。)交渉過程においては、相手方とは一切食事を共にしないという主義の人もいる。これはこれで一つの見識だとは考えるが、私は違う意見を持っている。

 中華料理(私の経験では、中華料理を避ける欧米人はほとんどいない。)のように気楽に多くの人と話ができる料理を選び、法務担当者のみならず営業や技術の担当者も含めて賑やかな場を設定する。

 叫化鶏(乞食鶏、富貴鶏)を注文しておき、相手方の交渉責任者に金色の小さな木槌で鶏を包んでいる塩や小麦粉を割って貰うちょっとしたショーを演出することもあった。私は、交渉に携わっているメンバーが一緒に食事をすることによりお互いを理解し合い、解決の糸口を見出すことが可能になると考えている。

 横に座った技術者から「我々技術部門の人間は貴社の提案に賛成なのだが、あの知的財産部の責任者だけが反対している。」、「あの誰々を説得できれば、他の人たちは同意する。」などとそっと教えて貰ったこともある。

 アメリカの大手化学会社との交渉の折のことである。技術対価の一時金の額が最後まで大きな争点として残っていた。双方ともそれぞれが妥当と考える額を提示していた。しかし、その額には大きな隔たりがあった。

 何回もの交渉を経た後の最後のトップミーティングの直前の夕食の席上であった。美味しいワインに口が軽くなったのか、妥協点についてのヒントを与えるつもりであったのか、隣に座っていた相手方の法務責任者が「われわれは〇〇百万ドルのプロジェクトをやっているのだからね。」とポツンと言ったのである。

 少し酔いの廻った頭で、ランニングロイヤルティその他の関連する費用を念頭に一時金の額を算出すると、その数字は彼等が今まで主張していた額を下回り、我々の額を少し上回った数字であった。ランニングロイヤルティその他の条件を考慮し、彼の発言を加味した数字を出して、両者の合意が得られたのであった。 

(以上) 

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