(第45号)
企業法務よしなしごと
・・・ある企業法務人の蹣跚・・・
平 田 政 和
Ⅳ.Seniorのために・・・将来を見据えよう(その8)
【リーガル・オピニオン】
法務部の担当者、責任者として法律上の問題について、その道の権威である専門家の意見を徴することは多い。口頭での意見照会、意見交換だけでなく、リーガル・オピニオンを頂戴したこともある。
リーガル・オピニオンを貰うのは、単なる法律相談ではなく専門家の間でも意見が分かれているような問題であったり、今まで学者も議論していないような論点であったり、または会社の事業やその方向性に重大な影響を与えるような案件である。
当然のことながら、事実関係や背後にある考慮すべき問題点をきっちりと整理し、判例や学説も調査し、自分の考えとその問題点を纏める。その後に相談に赴く。
あるとき、利害関係を共通する法律案件について、ある大手企業の法務の責任者が事実関係の詳細や学者の見解、過去の判例を調査することなく「顧問弁護士の意見を聞く」と発言した、とその案件を担当していた部下から報告を受けたのには驚きを通り越して呆れた。
例えその顧問弁護士がその種の案件についての第一人者だったとしても事実関係の詳細が不明であれば適切、的確な意見を得ることはできない。
私は学者や弁護士の意見を求めるときは、自分でリーガル・オピニオンを作成するつもりで、調べた内容と自分の判断をきっちりと書面にする、そしてその後に相談に行く、ことにしていた。
あるとき、その道の第一人者の弁護士にリーガル・オピニオンを貰うことになり、前提たる事実関係、質問事項、私の考え、その考えに至った理由などを整理して事務所を訪れた。
同弁護士とは10年来面識があり、私を可愛がって下さっているように思っていた。私の説明を聞かれた弁護士は「平田さん、私が見てあげるからあなたが纏めたら。」とおっしゃり、笑いながら「うちの事務所は高いからね。」と私が触れていなかった論点についても触れるようにと示唆され、意見をおっしゃって下さった。
ご厚意に甘えて勉強にもなると思い、今まで調べたことを中心に意見を取り纏めた。何回かのファックスやメールの往復で原稿が完成し、同弁護士名のリーガル・オピニオンを受け取った。
リーガル・オピニオンについては一つの思い出がある。
あるとき、ある機械の製造についての業界の1、2、3位の会社(このうちの二社は大手企業の子会社)の事業統合が行われることになった。この事業統合計画は三社のトップ間で極秘で検討され、法務部が知ったのは計画案につき取締役会での承認を条件に三社のトップの口頭合意がなされた段階だった。
この計画を聞いて私は少し慌てた。「独占禁止法の16条1項で禁止されている行為に該当しない、という説明をどのようにするか。企業の立場から独禁当局にこのことをどのように認めさせるか。」を纏めなければならない。専門家のリーガル・オピニオンも得ておく必要があるだろう。
日本でこの機械の製造を行っている会社はこの三社だけだった。しかし、口頭合意がなされた時点では国内市場の極端な縮小、販売価格の低下、中国製の安価な機種の市場参入等により、激烈な競争に晒され、事業としての存続の危機に立たされており、各社とも構造的な対応に迫られていた。世界市場におけるこれら国内三社の競争相手はドイツと中国の会社であった。
三社は重複投資の排除による国際競争力のある新機種の共同開発・生産、製造コストの削減、販売価格の引き下げ、既存の国内外の顧客に対する保守義務の履行と雇用確保等を目的としてそれぞれの該当事業を統合することを検討したと言う訳である。
独占禁止法上の事業分野の確定、事業分野の規模とその推移、そこでの三社の国内市場占拠率とその推移、国内市場での競争状況、外国企業の国内市場参入の動き、三社の当該事業の状況などを調査し、また過去に販売した機械の改造、保守部品の販売、メンテナンス・サービスの観点からも検討し、「本件事業統合は独占禁止法第16条1項には該当しない。」との結論を出した。
この結論を持って独占禁止法に造詣の深い弁護士を訪問し、同意見であることを確認しリーガル・オピニオンをお願いした。
公正取引委員会への報告書の提出については勉強を兼ねて部下に任せた。公正取引委員会事務局からは幾つかの質問や資料の提出要請があったが、独占禁止法16条1項に関しては、特に問題とされることはなかった。
(以上)