◇SH0250◇銀行員30年、弁護士20年 第9回「総会屋と会社」 浜中善彦(2015/03/10)

法学教育そのほか未分類

銀行員30年、弁護士20年

第9回 総会屋と会社

 
弁護士 浜 中 善 彦
 

 経理部証券業務課時代、毎日総務部へ何人もの人が出入りしていた。あるとき誰かに尋ねたら、総会屋だということであった。毎月の給料(?)をもらいに来るというのである。当時、株主総会は、総会屋が仕切っており、どの会社もシャンシャン総会と称して、議事次第どおり、一般株主からの質問や発言もなく短時間で終わるのが通例であり、その仕切りが総務部の仕事であった。
 

 また、役員室へは、特別な用事がない限り行員も出入りすることはできなかったが、証券会社の若い営業マンだけはほとんどフリーパスだった。当時は、新株発行の際、一部の会社や役員等に対しては、特別に割り当てるという習慣があったようで、おそらくそういった情報の提供や利便を図るためにそういったことが公然と行われていたのではないかと思われる。今でいうインサイダートレーディングが半ば公然と行われていた。
 今から思うと考えられないことであるが、当時は、誰もそれを不思議と思わなかったのである。当然のことながら、コンプライアンスとかコーポレートガバナンスという言葉などもなかった。
 

 当時、株主は会社の所有者であるという意識はほとんどなかったし、そういう議論もなかった。戦後長らく、増資は額面金額による株主割当て方式であったから、配当は株式の時価とは関係なく、安定配当と称して1割配当、つまり額面50円に対して年5円というのが普通のやり方であった。
 そういう状況であったから、会社に対する外部からの監視は、大株主である主取引銀行の役割であった。当時証券市場は未発達であったから、会社の設備資金等の大型の資金調達は、主取引銀行を幹事行とする協調融資方式によるのが通常であった。協調融資は、取引金融機関の業種別のシンジケート団によって、各業種ごとに金額以外の金利や返済条件等は同一条件で融資を行う。協調融資は、現在のシンジケートローンとは異なり、各金融機関との個別に金銭消費貸借契約が締結され、銀行取引約定の適用があり、諾成契約ではなく要物契約であった。
 社外取締役という観念はなかったが、事実上の社外取締役は、主取引銀行の元役員が、取引先企業の役員として就任している例が少なくなかった。これは、企業にとっては資金調達の便を図ってもらうだけにとどまらず、営業担当として銀行の取引先を紹介してもらうという狙いもあった。逆に、銀行としては、役員の再就職先の確保とともに、取引先企業との紐帯強化の狙いがあり、双方にそれぞれのメリットがあった。
 

 しかし、今や状況はまるっきり違ってきている。会社の所有者は株主であることはもはや常識となり、株主総会の運営は、総会屋から弁護士の仕事となっている。コンプライアンスやコーポレートガバナンスは、経営者にとって最大の課題といってもよく、法務部の役割はかつてなく大きなものとなってきている。しかし、法務部門における弁護士の人数はアメリカなどの外資系企業に比べるとまだまだ少なく、弁護士がいない法務部も少なくない。今後会社における法務部門の強化には、企業内弁護士の増加と、それに伴うスタッフの充実が大きな課題であると思う。
 
以上
 
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