◇SH0273◇消費者庁が通信販売業者に対して行う是正のための指示処分が公示送達によって行われた事例 村上雅哉(2015/04/02)

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消費者庁が通信販売業者に対して行う是正のための指示処分が公示送達によって行われた事例

岩田合同法律事務所

弁護士 村 上 雅 哉

 

 消費者庁は、平成27年3月24日、危険ドラッグ等の通信販売を行っていたサイトの運営業者に対し、公示送達により、販売業者の氏名又は名称の表示不備などといった違反行為の是正を特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」という)に基づいて指示した。

 特定商取引法は、通信販売において、違法又は不当な行為が行われた場合において、販売業者等に対してその営業を継続しながら必要な是正又は改善措置をとらせることにより、法違反若しくは不当な状態を解消し、又はこうした状態に至った原因となる事由を除外して、通信販売の適正化を図るため、主務大臣が業者に対して指示を行うことができる旨規定している(同法14条1項)。そして、指示に従わない者に対しては100万円以下の罰金が科せられる(特定商取引法72条1項2号)ほか、業務停止命令(同法15条)の対象となり、かかる業務停止命令にも反した場合には2年以下の懲役または300万円が科せられることとなる(同法70条の2)。

 ところが、相手方となる業者の住所が不明な場合には、この指示を行うための文書を送付することができず、業務停止命令や罰則を科す前提となる行政処分(指示)をすることができないという問題が生じる。

 相手方の住所が不明な場合については、個別の法律で公示送達について定めている例がある。公示送達とは、意思表示を相手方に到達させたいが、相手方が誰であるか分からない(当初の相手方が死亡して相続人が誰かわからない場合など)ため、又は、相手方の住所が分からないために、意思表示を到達させることができない場合に、その意思表示を到達させるための手続のことである。例えば、国税通則法14条は、行政機関の掲示場に掲示を始めた日から起算して7日を経過した日に書類の送達があったものとみなすこととしており、旅券法19条の2も、旅券返納命令について、相手方の住所が不明な場合などに、官報に掲載することで返納命令の通知に代えることができ、官報掲載の日から起算して20日を経過した日に通知が到達したものとみなすこととしている。

 もっとも、特定商取引法は公示送達についての特別の規定がなく、相手方の所在が不明な場合等にどうするかが問題となるが、この点については、従前から、民法98条、民事訴訟法110条・111条に基づく公示送達が可能と解すべきであるとの学説が存在した。

 本件は、国(消費者庁)が特定商取引法の行政処分である指示を公示送達によって行った初めての事例であるとのことであるが、業務停止命令や罰則適用の前提となる行政処分(指示)の実効性を確保するために、国(消費者庁)が裁判所に対して民法98条1項の規定に基づく公示送達の申立を行ったものと考えられ、今後、同種の事例が増えてくることも考えられる。

    通信販売業者に対する行政処分の流れ
 

 

(むらかみ・まさや)

岩田合同法律事務所パートナー。2001年東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。破産手続、民事再生や会社更生などの法的整理(債権者側および債務者側の双方から関与)や私的整理などの倒産案件や債権回収案件を中心に、上場企業、非上場企業のほか地方公共団体などを依頼者とする多種多様な案件について幅広い経験を有する。

岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/

<事務所概要>

1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。

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