◇SH0360◇銀行員30年、弁護士20年 第41回「未習者は既習者より不利か」 浜中善彦(2015/07/03)

法学教育そのほか未分類

銀行員30年、弁護士20年

第41回 未習者は既習者より不利か

弁護士 浜 中 善 彦

 

 司法試験受験の場合、未習者は既習者に比べて不利ではないかということが問題となる。実際にこの点がどうなっているか、法務省作成の「平成26年新司法試験受験状況」によってみると、合格者1,810人のうち、既習者法学部出身者は1,033人、既習者非法学部88人、未習者法学部364人、未習者非法学部162人となっている。合格者1,810人のうち、既習者合計は1,121人(合格率32.8%)、未習者合計は526人(合格率12.1%)、予備試験合格者は163人(合格率66.8%)である。この結果からみると、明らかに、未習者は既習者より、合格率において劣っている。確かに、既習者はすでに法律学を一通り学んでいるので、既習者は未習者に比べて有利だと考えられる。

 

 しかし、仮に、先に述べたように、司法試験合格に必要な時間数が約8,000時間とすると、昼間部の未修者法科大学院生の場合、3年の履修期間があるのであるから、1日10時間も勉強すれば、年間3,650時間、3年間では10,950時間の勉強時間が確保できる勘定である。そうであれば、未修者にとっても、合格に必要な時間は十分にあることになり、明確な目的意識をもって合理的な学習方法をとれば、特に既修者よりも不利益はないと考えることもできる。また、予備試験合格者の多くは法学部学生や法科大学院在学中の学生と考えられるので、そうであれば、未習者といえどもそれほどの不利益はないと考えることもできるのではないか。

 さらに、この場合の既習者は、法学部を卒業したばかりか、いったん就職したが、それほどの期間が経っていない場合に限られると思う。というのは、最近のように頻繁に法改正があり、学説も基本的な考え方自体が変わってくるような場合は、5年も経てば、法学部出身者であるからといっても、それほど有利とはいえないと思われるからである。

 たとえば、旧商法時代の学習者のほとんどは、弘文堂の鈴木竹雄先生の『会社法』を基本書にしていたと思われるが、同じ弘文堂の神田秀樹先生の『会社法』(第16版、平成26年)と比べると、その内容の違いに愕然とするのではないか。それどころか、神田先生の『会社法』にしてから、平成13年の初版以降、ほぼ毎年のように改訂されている。会社法自体が毎年改正されるばかりか、平成13年の場合は、1年間に6月(自己株式等)、11月(株式、新株予約権等)、12月(監査役制度等)と3回も法改正がなされた。また、それまでなかった、委任立法にもとづく施行令の条文数も膨大な数にのぼる。法改正とは別にこれらもしょっちゅう改正されるので、その変化はめまぐるしいばかりである。このような法改正に伴って、自己株式取得の原則禁止が原則自由に変更され、資本4原則に関する学説状況も変化するほか、新株予約権と株式の不公正発行の関係等新たな論点が出てくるなど、これまでとはまるっきり違った理論や問題が提起されている。

 民法は会社法ほどではないにしても、法人法の改正などかなり大きな改正があり、倒産法、労働法等他の多くの法分野でも、同様のことが起きている。それだけではなく、その間の判例変更や新しい論点が出てくるなど、法学部出身者であるからといって、既習の知識がそのまま役立つほど甘くないことは覚悟しておく必要がある。逆にいえば、過去の学習時間の有無や多寡は、合理的な学習方法を確立することで克服できると考えることもできる。

以上

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