◇SH0439◇第一中央汽船、民事再生手続開始の申立て等に関するお知らせ 村上雅哉(2015/10/06)

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第一中央汽船、民事再生手続開始の申立て等に関するお知らせ

岩田合同法律事務所

弁護士 村 上 雅 哉

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 第一中央汽船株式会社(以下「第一中央汽船」)と、その100%子会社のSTAR BULK CARRIER CO., S.A.(以下「STAR BULK」)は、平成27年9月29日に、東京地裁に対し、民事再生手続開始の申立てを行った。

 各負債総額は、同年6月末時点で第一中央汽船が約1196億800万円、STAR BULK が約568億5900万円と公表されており(民事再生手続において増加する可能性があるとされている。) 、上場企業倒産では4月に民事再生を申し立てた江守グループホールディングス株式会社に次ぐ今年3社目の事例で、同社を抜いて負債総額は今年最大である。

 STAR BULKは、パナマ共和国に本社を有する外国企業であるが、今般、第一中央汽船とともに東京地裁に民事再生の申立てを行っている。民事再生法では外国企業であっても日本国内に営業所、事務所又は財産を有する場合には、日本の裁判所に民事再生を申し立てることが可能である(同法4条)。そして、日本で申し立てられた民事再生の効力は、日本国外に存在する再生債務者の財産にも及ぶ(これは会社更生等のその他の倒産手続でも同様である。)。効力が在外資産に及ばないとすれば、例えば、海外の港に第一中央汽船が保有する船舶が寄港した際に、国内の倒産手続とは無関係に船舶を差し押えることができることとなり、仮に当該船舶に担保権が設定されていれば、担保権者は競売の申立てを行うこともできることとなり、債権者間の公平を害しかねない。実際に、国内の倒産手続の効力は海外に及ばないとされていた時代の事例として、日本で会社更生手続が開始された海運会社の所有船舶について船舶抵当権者が停泊地であるカナダで競売手続を申し立てた事例が存する(一成汽船事件)。同事件では、日本の更生管財人が競売手続の効力を争って(日本の会社更生では抵当権者も自由な担保権実行が認められない)、異議を申し立てたにもかかわらず、カナダ連邦控訴審裁判所が競売手続の続行を認め、結果として、債権者間の公平を害する事態となってしまった。なお、現行法では会社更生であっても民事再生であっても倒産手続の効力が在外資産にも及ぶので、こうした不都合の解消が図られている。ただし、倒産手続の効力が世界中に及ぶとしているのは日本法がそう定めているだけであって、外国の司法権がそれを認めるかはまた別の問題である。実際には、海外で差押や競売手続を食い止めるためには、日本の倒産手続の効力を当該海外の裁判所などに承認してもらうことが必要である(例えば、アメリカ連邦倒産法ではChapter15において、外国倒産処理手続の承認に関する規定が設けられている。日本においては、「外国倒産処理手続の承認援助に関する法律」の規定に基づいて、外国の倒産処理手続の効力を承認する旨の裁判所の決定を取得することとされている。)。

 民事再生の手続開始決定がなされた場合には、再生債権の支払はストップされ、原則として再生計画によらなければ弁済を受けることができないが、民事再生が「申し立てられた」だけでは支払がストップされるわけではなく、再生手続開始決定までの間は、弁済禁止の保全処分(民事再生法30条1項)の効果として既存の債務の支払が禁止される。この弁済禁止の保全処分においては、給与等の労働債務や税金、リース料などの一定の種類の債務について保全処分の例外とする旨が定められるのが実務上一般的であり、これらの例外とされた債務については従前どおりの支払が許される。今回の第一中央汽船の事案では、燃油の購入代金債務などについてもこの弁済禁止の保全処分の例外とされている模様である。これは次のような理由によるのではないかと推察される。同社のプレスリリースによれば、同社グループは、東南アジアや中国、ロシア地域を中心とする近海不定期船分野をはじめとして国際的な海運事業を行っているとのことであり、同社が運航している船舶が諸外国の港に寄港する際に、そこで給油を受けたり、港湾での代理店業務の提供を受ける必要があると思料されるところ、既存の買掛債務の支払をしなければ、これら給油の提供や労務の提供を継続的に受けることが不可能となり事業の遂行に著しい支障を生じる事態に陥ってしまう。そのため、このような債務については弁済禁止の保全処分の例外とされたのではないかと考えられる。同じような問題は、国内外で航空機を運航している航空会社が法的整理に至った場合でも生じ得る。

 第一中央汽船は、現在のところ、再建を支援してくれる具体的なスポンサーが決定しておらず、自主再建の途も残しつつ、再生手続を進めていくとのことである。今後、新たにスポンサー候補が現れることも想定されるが、再建の方向性や国際倒産処理上の問題など、再生手続の行方が注目されるところである。

 

 

今回、民事再生を申し立てた2社

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