◇SH1934◇タイ:仮想通貨を中心としたデジタル資産の規制に関する新法 箕輪俊介(2018/06/28)

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タイ:仮想通貨を中心としたデジタル資産の規制に関する新法

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 箕 輪 俊 介

 

 ICO(Initial Coin Offering)と仮想通貨に関する規制については2018年2月にも佐々木弁護士より紹介があったが、2018年5月13日にデジタル資産の規制について規定した法令(以下、「デジタル資産法令」という。)が公布され、2018年5月14日より発効している。また、同日付でデジタル資産の取引に係る課税に関する法令(以下、「デジタル資産課税法令」という。)も発効された。これらについて、本稿にてその内容を紹介したい。

 

1. 仮想通貨及びデジタルトークンの定義

 デジタル資産法令において仮想通貨及びデジタルトークンは以下のとおり定義されている。

  1.   仮想通貨:デジタル資産の交換を含む、物品、役務又はその他の権利を取得するための交換媒体とすることを目的として、電子システム又は電子ネットワークにて創られた電子記録の単位をいう。
  2.   デジタルトークン:何らかのプロジェクト又は事業に向けた投資に参加する者の権利を特定すること及び発行体とトークン保有者の間の約定で発生する特定の物品、役務又はその他の権利を取得することを目的として、電子システム又は電子ネットワークにて創られた電子記録の単位をいう。

 上記のとおり、仮想通貨は、決済手段としての利用が想定されている。これに対して、デジタルトークンは、一定のプロジェクトに参加する権利の有無及びその内容を規定するために利用されることが想定されている。なお、日本における事務ガイドラインのように、仮想通貨の範囲及び該当性の判断基準を規定したものは未だ制定されていない。

 

2. ICOに関する規制

 ICO(デジタルトークンの公開)に関する規制は大要以下のとおりである。

  1.   ICOの発行体は、タイ法に準拠して設立された非公開会社又は公開会社に限定される。
  2.   ICOを行うにあたっては、タイ証券取引委員会(以下、「SEC」という。)より事前に承認を得る必要がある。
  3.   ICOを行うにあたって目論見書を作成する必要があり、かかる目論見書はSECの事務局に届けられる必要がある。
  4.   ICOはSECが認可したICOポータル(500万バーツ以上の資本金を有するタイ法に準拠して設立された法人であり、デジタルトークンの発行に関するシステムを提供する者)を通じて実施される必要がある。
  5.   ICOの発行体は、デジタルトークンの発行にあたり、自身の財務状況や事業の概要等、デジタルトークンの保有者や投資の意思決定、デジタルトークンそのものの価値に影響を与えうる重要事実について、投資家に向けて公開する必要がある。

 

3. デジタル資産事業

 デジタル資産法令に基づき、デジタル資産事業に従事するためには、財務省より許可を得る必要がある。同法令上、デジタル資産事業は、(i)デジタル資産の取引センター(取引所)業、(ii)デジタル資産取引仲介業、(iii)デジタル資産販売業及び(iv)財務省によって規定されるデジタル資産に関連するその他の事業とされている。デジタル資産法令が施行される前からデジタル資産事業に従事していた者は、デジタル資産法令施行後90日以内にかかる許可の申請を行う必要がある。

 

4. 罰則

 デジタル資産法令に違反した場合は、刑事罰の対象になりうる。例えば、SECの許可なくICOを行った場合には、2年以下の懲役、50万バーツ以上デジタルトークンの売上の2倍以下の罰金又はそれらの併科の対象となる。また、ICOに関するインサイダー取引や市場操作についても刑罰の対象とされている。

 

5. デジタル資産の取引に関する課税

 デジタル資産の売却等によって所得が発生した場合、かかる所得は15%の源泉徴収の対象となる。

 

6. 新法の評価

 デジタル資産法令は、タイにおけるICOや仮想通貨に関する規制を初めて明確に規定したものではあるものの、この法令だけでは不透明・不明確な部分もあり、そのような部分については今後この法令の下、当局がどのような運用するかを注視する必要がある。また、どのような行為が具体的にどのタイミングで課税の対象となり、所得がどのように計算されるかは投資家も高い関心を寄せるところであるものの、この点も不明確な部分がある。ガイドラインや下位規則を策定することにより交通整理をすることが必要と思われ、今後の動向が注目される。

 

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