中国:「爆買い」中国人消費者に日本製品を売る
――越境ECと法律問題(1)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 若 江 悠
1.概要
訪日中国人観光客による日本での「爆買い」が続くなか、品質の高い日本製品を求める中国人のさらなる需要を満たすため、中国国外から直接中国の消費者に向けて商品を販売するという「越境EC」が盛り上がりをみせている。しかし、数多くの日本の事業者が参入を試みる一方で、法律上の整理や法的リスクの分析は十分になされていない印象を受ける。今回は3回に分けて、越境ECの背景、概要を確認した上で、越境ECにおける取引関係の法律上の整理と、検討すべき法的リスクを簡単にご紹介する。
2.背景
全世界を揺るがした中国の証券市場における株価暴落や、中国経済全般の不調傾向の一方で、訪日中国人観光客の増加の勢いは、今なお衰えをみせない。日本政府観光局(JNTO)のデータをみても2005年1月から8月までの訪日中国人数(推計値)は前年同期比117.0%増、株価暴落後の2015年7月及び8月をみても前年同月比で2倍以上となっている。そして、訪日中国人の旅行消費額は2015年4-6月期で前年同期比3倍と急増し訪日外国人全体の40%超を占めるに至り、一人あたりで見ても1回の旅行で約17万円を買い物に支出している(以上、観光庁「訪日外国人の消費動向」)。このように中国人観光客が日本各地で医薬品から炊飯器、便座まで各種商品を求めいわゆる「爆買い」を行っていることは広く報道されているが、日本製品の魅力は、為替の関係もあって価格が割安でありながら、安全かつ高品質が保証されている(と認識されている)点にあるようで、中国人観光客が日本への旅行を通じて日本の環境とその商品を自ら体験することで、口コミ等を通じてますます需要が高まるという好循環が生まれているように感じられる。旺盛な需要に応えるため、小売業をはじめとする日本企業は、中国人買い物客向けの商品充実のほか、中国語での案内や各種中国語媒体での宣伝を強化しており、旅行開始に先立ち中国にいながらにして日本で購入予定の商品を予約(取り置き)できるサービスも始めている。ただ、これらはいずれも、日本国内における販売行為とそれに伴う宣伝広告活動にとどまるもので、基本的には日本法のみが適用されると考えてよいだろう。
さて、これまで日本企業がその商品を中国消費者に販売する場合、中国現地法人や代理店を通じて、輸入のうえ販売させる方法(あるいは、現地法人等に生産販売させる方法)をとってきたわけであるが、近時は、そのような伝統的な方式でなく、「越境EC」サイトを通じて直接中国に所在する消費者に向けて商品を販売する日本企業が増加している。このような越境ECの市場規模は、中国の消費者の海外商品(「原装」)志向により、2014年には1,000億元(約2兆円)を超え、2015年には2,500億元(約5兆円)にのぼると予想されている。現在のところ、化粧品、健康食品を含む医薬部外品、日用品、粉ミルクを含むベビー用品、服飾、電子製品等の商品が主に取り扱われ、日本、韓国、台湾、欧米諸国を中心に全世界から出品されている。中国の消費者が海外から商品を購入するため、免税となるか、通常の関税ではなく「行郵税」と呼ばれる個人輸入税のみが納付されるのが通常である(ただし、この点は制度変更が予定されている)。現在のところ、主に税関及び検査検疫当局が管轄しており、一定の商品を除き越境ECの発展を強く推進する立場がとられており、将来が期待されている。
((2)につづく)
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