チリ労働法の基礎
西村あさひ法律事務所
弁護士 梅 田 賢
1. はじめに
中南米における投資判断及び投資後のオペレーションを行うに際して、当該投資対象国における労働法制は事業活動の実態や事業運営上のコスト等に直接的な影響を与えることから、その理解が非常に重要となる。さらに、労働法制については各国における特徴的かつ独特な制度が時折見受けられる。そこで、本稿においてはかかる制度も含めて、チリにおける労働法制の概要を紹介したい。
2. 労働法の概要について
チリの労働法のうち、雇用契約、労働時間、時間外労働、有給休暇、利益の分配、国籍要件及び雇用契約の終了に関する制度の概要は以下のとおりである。
とりわけ、会社の利益の一部を従業員に分配することが必要となる利益の分配に係る規制や、一定割合の従業員はチリ人であることが必要とされる国籍要件に関する規制は、日本とは異なる特徴的な制度である。かかる制度は、チリにおける人員配置や事業計画等にも影響を与え得るところであり、チリでの投資判断に際してはこうした法規制を予め織り込むことが肝要である。
概 要 | 備 考 | |
雇用契約 |
書面による雇用契約が締結されていない場合でも雇用関係は認められ得る。但し、雇用関係の開始後、原則として15日以内に書面による契約を締結する必要がある。 |
チリの労働法上、雇用契約書には、①契約締結日及び場所、②契約当事者の情報、③従業員の役職、④業務の内容、⑤業務地、⑥給与、⑦給与の支払条件、⑧契約期間等を規定することが必要とされる。 |
労働時間 |
原則として1週間の労働時間は45時間を、1日の労働時間は10時間を越えてはならない。 |
労働時間に関する規制は、組織のトップレベルの従業員等には適用されないといった例外がある。 |
時間外労働 |
原則として雇用者と従業員との合意により2時間までの残業は可能。 |
この場合、時給の50%以上の割増賃金の支払いが必要となる。 |
有給休暇 |
1年以上勤務した従業員は15営業日の有給休暇を取得することができ、このうち10日間は連続して取得しなければならない。 |
有給休暇の繰越しは2年間のみ可能。
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利益の分配 |
会社が利益をあげた場合、その一部を従業員に分配することが必要となる。 |
一定の調整はなされるものの概して純利益の30%を従業員の給与に応じて支払うか、又は従業員の年俸の25%のボーナスの支払い(但し、最低賃金の4.75ヶ月分を超えてはならない)が必要となる。 |
従業員の国籍要件 |
25名超の従業員を雇用する場合、原則として少なくとも85%の従業員はチリ人であることが必要とされる。 |
チリ人と結婚をした従業員やチリに5年以上居住している従業員はチリ人とみなされる。また、当該割合の算定に際して、チリの従業員によって代替することができない専門家等はカウントする必要がない等の例外がある。 |
従業員の解雇 |
経済状況の変化、会社の縮小等の会社都合による解雇も許容されている。 |
会社都合による解雇の場合、使用者は解雇の30日前までに通知するか、それに代わる金銭(1ヶ月分の給与相当額)の支払いをする必要がある。また、一定の場合には退職手当の支払いも必要となる。 なお、従業員が契約違反等の事由に基づいて解雇される場合には、上記のような事前通知は不要とされ、退職手当を受け取ることもできない。 |
3. ストライキ等に関する法改正について
2014年12月29日付けでチリ政府は、労働法の改正に関する法案を国会に提出し、2015年8月19日に当該法案が国会において承認されるに至った。当該改正により、チリにおけるストライキに関する規制等に重要な変更がなされているが、これらの改正内容については別途紹介予定である。
以 上
(注)本稿は法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法又は現地法弁護士の適切な助言を求めて頂く必要があります。また、本稿に記載の見解は執筆者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所又はそのクライアントの見解ではありません。