◇SH0878◇アルゼンチンにおけるマクリ政権下の規制緩和 伊藤 豊(2016/11/14)

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アルゼンチンにおけるマクリ政権下の規制緩和

西村あさひ法律事務所

弁護士 伊 藤   豊

1. はじめに

 アルゼンチンでは、マウリシオ・マクリ氏が2015年12月10日に大統領に就任した。マクリ政権は、2015年12月17日の管理変動為替相場制への移行を始めとして、前政権下での介入主義、保護主義的な政策により停滞していた経済の問題を解決するために様々な規制を緩和し、居住者、非居住者を問わずアルゼンチンでの経済活動を容易にするような改革を進めている。

 本稿では、その一内容である外国為替取引規制と貿易規制の緩和の一部を取り上げる。

2. 外国為替取引規制の緩和

(1) 概要

 アルゼンチンでは、外貨準備高の減少防止や、ペソ相場の維持を図る目的で、財やサービスの輸出入における決済、直接投資やポートフォリオ投資といった投資に係る資金の流出入等に関する外国為替取引に関して、アルゼンチンの居住者/非居住者、民間/公共機関、金融/非金融機関等を巡って、様々な規制が存在する。

 以下では、非居住者による直接投資、ポートフォリオ投資、貸付けに関するマクリ政権開始後の規制内容の一端を紹介する。なお、外国為替取引の規制の枠組みは、アルゼンチン中央銀行が日々発する通達(Comunicación)の形式で補足されており、短期間のうちに変化し得ることに留意されたい。

(2)  非居住者による直接投資

 アルゼンチンへの対内投資は、「直接投資」と「ポートフォリオ(間接)投資」に分類される。直接投資には、不動産投資、国内企業の10%以上の株式や議決権を保有することが含まれる。

 2015年12月16日以降になされた直接投資では、外貨を購入してリパトリエーション(本国への送金)をするために、外国為替市場を経由して国内に資金が移動してから120日(2015年12月16日よりも前になされた直接投資は365日)が経過していなくてはならないのが原則である。

 投機的な資金の流入を抑制するために、一定の資金の国内への流入にはその30%に相当する金額を無利息で預金する義務が課せられたが、直接投資は一般的には免除されている。

 50万米ドル以上の直接投資は、中央銀行に対する報告義務が課され得る。

 居住者は、監査済みの利益配当を非居住者である投資家に対して送金することが出来る。

(3)  非居住者によるポートフォリオ投資

 ポートフォリオ投資には、国内企業の10%未満の株式や議決権を保有、アルゼンチンの債券投資や、アルゼンチン国内のペソ建て銀行預金等が含まれる。

 ポートフォリオ投資の場合、中央銀行の事前許可を得ることなくリパトリエーションが行えるのは月間50万米ドルまでであったが、かかる50万米ドルの上限は撤廃された。

 直接投資と同様、ポートフォリオ投資のリパトリエーションにも原則120日の経過要件があるが、非居住者が国内での配当収入を国内で再投資する場合には、その後の当該資金のリパトリエーションについて120日の経過要件は適用されない。月間1万米ドルまでのリパトリエーションであれば、外国為替市場を経由して国内に資金が移動した証明や、120日が経過したこと等の条件を満たすことも不要となる。

 また、金融機関は、アルゼンチン国内での資金回収の日から国内外国為替市場を経由する日までに、ポートフォリオ投資の処分や換金によって非居住者が国内で受け取った資金が別の対内投資に流用されなかったことの証拠を求めなくてはならなかったが、その必要はなくなった。

 居住者は、監査済みの利益配当を非居住者である投資家に対して送金することが出来る。

(4) 非居住者による居住者への貸付け

 非居住者から居住者に対する金銭の貸付けの満期日は、貸付元本がアルゼンチンに送金された日から120日(2015年12月16日までになされた貸付けは365日)後とする等の一定の条件のもと、債務者である居住者は、中央銀行の事前の許可を得ることなく、国内外国為替市場を通じて、債権者である非居住者に対して元本返済を行うことが出来る。また、居住者は、国内外国為替市場を通じて、利息の支払いを行うことも認められている。

3. 貿易規制の緩和

 輸入取引の事前宣誓書による輸入許可システムであるDJAIが撤廃され、2015年12月23日に、取引の主要な情報を申告することを求めるSIMIという新たな輸入モニタリング制度が導入された。新制度のもとでは、申告から10日の間に監督官庁が輸入許可/不許可の判断を行う。SIMIの有効期間は180日である。

 ROEと呼ばれる輸出許可制度が撤廃され、DJVEと呼ばれる情報提供システムが取って代わった。

 大豆製品を除き、穀物、脂肪種子、畜産物、果物、野菜等の輸出税が撤廃された。大豆製品の輸出税は35%から30%に減税され、以後も逓減される予定である。また、鉱物(MERCOSUR共通関税番号の品目分類68類から83類に該当するものを含む。)に関する輸出税が撤廃された。

4.  結び

 市場、経済指向のもと、外国為替市場の正常化や対内投資の誘因のために一定の規制緩和が今後も進められることが予想され、その動向が注目される。

 

以 上

 

(注)本稿は法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法又は現地法弁護士の適切な助言を求めて頂く必要があります。また、本稿に記載の見解は執筆者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所又はそのクライアントの見解ではありません。

 

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