◇SH0976◇コロンビアにおけるM&A 高木智宏(2017/01/23)

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コロンビアにおけるM&A

西村あさひ法律事務所

弁護士 高 木 智 宏

 

1. はじめに

 コロンビアにとって2016年は転機となる年であった。コロンビアにおいては、左翼ゲリラ組織であるコロンビア革命軍(FARC)と政府との間で50年以上に亘り紛争が続けられてきたが、サントス現大統領が2010年に就任すると、コロンビア政府とFARCは、2012年10月に和平交渉を開始し、2016年に和平合意に達した。当初の和平合意案は、対FARC強硬派の反対により、同年10月の国民投票で否決されたが、犠牲者への補償などを修正した新しい和平案をまとめ、同年11月に議会において承認された。これを受け、FARCの武装解除が始まる見通しである。FARCと政府との間の紛争は、コロンビアに進出し又は進出を検討しようとしている日本を含む外国企業にとっても治安上の大きな懸念材料であったが、上記の通り和解合意に至ったことから、外国企業によるコロンビアでのM&A取引が今後益々活発化することが期待される。

 

2. M&Aのストラクチャー

 コロンビアの会社等を対象とするM&Aの主な手法は、以下の通りである。なお、コロンビアにおける法人形態については、SH0547 コロンビアにおける主な法人形態 平尾 覚(2016/02/08)を参照されたい。

(1) 対象会社の株式/持分の取得

 コロンビアの会社等を対象とするM&Aにおいては、株式又は持分を取得するという方法が一般的に用いられている。対象会社が非上場会社の場合には、既存株主との間で相対で株式又は持分を取得すれば足りる。これに対して、コロンビアにおいては上場会社が多くなく、上場会社を対象とするM&Aは希ではあるが、上場会社である対象会社の25%以上の株式を取得する場合には公開買付けの方法により取得する必要がある。

 なお、上記で述べた既発行の株式又は持分を取得する方法の他、対象会社によって新規に発行される株式又は持分の取得を通じてM&A取引を行うことも可能である。

(2) 合併

 コロンビアの会社等を対象とするM&Aの方法の一つとして合併が考えられるが、合併は、2つ以上の会社が1つに結合し、その全ての権利義務を承継する行為とされており、合併後の存続会社/新設会社は、合併当事会社の負債及び資産等を全て承継することとなる。コロンビア法上、合併には以下の2つの種類がある。

  1. ① 2つ以上の会社の全ての権利義務を1つの会社に承継させることにより会社を新設するもの
  2. ② 1つ以上の会社が他方の会社に吸収されて、その全ての権利義務が承継されるもの

 合併を行うためには、別途Bylawsで規定しない限り、各合併当事会社の株主総会において、発行済み議決権付株式の過半数の賛成による決議を得ることが必要である。もっとも、簡易型株式会社(simplified stock corporation)に関しては、その親会社が90%以上の議決権を保有している場合には、合併当事会社である子会社においては当該子会社の取締役会の承認のみで親会社との間で合併ができる。また、簡易型株式会社(Simplified stock corporation)が合併を行う場合には、その合併対価を現金、株式その他の資産とすることもできる。

(3) 資産譲渡

 コロンビアの会社等を対象とするM&Aの方法の一つとして資産譲渡が考えられる。資産譲渡の場合には、対象会社の資産のうち必要なもののみを取得することができる。

(4) Business Establishmentの譲渡

 コロンビアの会社等を対象とするM&Aの方法の一つとしてBusiness Establishmentの譲渡というものがある。上記の資産譲渡と異なり、譲渡対象を個別に特定することなく、一定の資産等の集合体を取得することができるものである。Business Establishmentの譲渡については、公共証書(public deed)又は当事者により認証された私文書により合意される必要がある。

 

3. M&Aを行う場合の留意点

 コロンビアの会社等を対象とするM&Aについては、以下のような留意点がある。なお、外資規制については、SH0593 コロンビアにおける主な外資規制 平尾 覚(2016/03/14)を参照されたい。

(1) 決済方法

 コロンビアの会社等を対象とするM&Aにおいては、売買代金の一部をholdbackするのが通常であり、受託者(Fiducia)に譲渡するエスクロー類似の制度が採られることが多い。なお、コロンビアの会社等を対象とするM&Aにおいては、M&A保険を用いることも可能であるが、上記のエスクロー類似の制度が用いられることが多く、M&A保険は通常使われていない。

(2) 株式・持分の取得手続

 コロンビアの株式会社の株式譲渡を完了するには、当該会社の株主名簿(Registry Book of Shareholders)に当該譲渡が登録される必要がある。

 また、合同会社(Sociedad de Responsabilidad Limitada)の持分の譲渡については、公証人の面前で作成された書面により行われる必要があり、また、Chambers of Commerceに当該譲渡が登録される必要がある。

(3) Business Establishmentの譲渡を行う場合の承継債務の帰属

 Business Establishmentの譲渡を行った場合には、売主及び買主が、当該Business Establishmentの通常業務により当該売買以前に発生し、計算書類に適切に記録された義務について連帯債務を負う。売主の責任は、債権者に対する通知及び全国紙における公告を行い、債権者が買主が新債務者となることについて異議を述べない場合には、当該譲渡に係る契約がChamber of Commerceに登録された日から2か月で終了する。

(4) 競争法上の事前届出

 コロンビアの競争法上、合併等のM&Aを行う場合において、閾値を超える場合には、事前届出(いわゆる merger filing)を行う必要がある。

(5) 準拠法

 コロンビアの会社等を対象とするクロスボーダーのM&A契約においては、イングランド法やニューヨーク州法などコロンビア以外の法律が準拠法とされることが通常であると言われている。

(6) 紛争解決方法

 コロンビアの会社等を対象とするクロスボーダーのM&A契約においては、紛争解決手段として、コロンビア以外の国における仲裁手続が選択されることが通常であると言われている。コロンビアは1958年ニューヨーク条約の加盟国となっており、コロンビア以外の国における仲裁判断が、コロンビアの裁判所によって承認・執行が可能となっている。

 

  1. (注) 本稿は法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法又は現地法弁護⼠の適切な助言を求めて頂く必要があります。また、本稿に記載の見解は執筆者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所又はそのクライアントの見解ではありません。

 

 

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