企業内弁護士の多様なあり方(第25回)
-弁護士の性格 – ゼネラリストvs スペシャリスト(下)
株式会社北陸銀行コンプライアンス統括室
弁護士 田 中 努
3 ゼネラリストとしての側面
企業内弁護士のスペシャリストとしての側面が法律家としての技術的な部分で現れてくるのに対し、ゼネラリストとしての側面は、主に社内におけるポジションやキャリアパスとの関係で現れてくる。
日系の、特に大規模な企業では、年功序列・終身雇用のもと、比較的長い時間をかけて様々な経験を通して社員を育てるという雇用慣行が確立しているところが多い。また、企業内弁護士が力を発揮するためには、所属企業の事業内容を理解することが不可欠である。これらが相まって、比較的若い企業内弁護士は、入社後一定期間は他の社員と同様にゼネラリストとして成長していくことを求められることがある。例えば、近年、司法研修所修了直後に企業に就職する弁護士が増えているが、このような企業内弁護士の場合、法務部門内で様々な分野のセクションに異動することがあるし、企業によっては、入社後一定期間は法務以外の部門に配属し、法律実務分野以外のことも身に付けさせる方針を採っているところもある(弁護士登録させたうえで社内の各種管理部門を経験させる事例、入社当初は弁護士登録をさせず、営業部門に配属して営業に従事させる事例などがある。)。
対照的に、法務部長や法務担当役員などの比較的シニアな企業内弁護士になると、実務担当者として専門性を生かして活躍するよりも、部門長として法務部門のマネジメントに比重を置くことが求められるようになる。そこでは、部下の管理や評価、部門間での調整、社内の各種委員会や経営会議への出席などが業務の中心となり、法律実務分野への深い知識を持ちつつも、それに限定されない幅広い知識やリーダーシップ、周囲を説得する能力などが必要となる。そのため、ジュニアな企業内弁護士とは違った意味でゼネラリスト化していくことになる。このようなゼネラリスト化を望まない場合、すなわち、スペシャリストとして活躍し続けることを希望するのであれば、一定のレベルに達した段階で法律事務所へ移るという選択肢が考えられるが、外部弁護士となった場合、前述のように必ずしも社内にいた時と同じように専門性を追求できるとは限らない。他方で、社内に残って専門性を追求するとすれば、社内のいわゆるラインからは外れた専門職としての立場を選択することになるが、それは経営層として企業に影響を与えることから遠ざかることを意味する。
これまで、弁護士のキャリアといえば、小規模事務所であればイソ弁を経て独立する、大規模事務所であればアソシエイトからパートナーに昇格するといったものが中心であったが、企業内弁護士のキャリア形成にはこれらにはない特有の悩みがあるといえる。