SH1024 メキシコの腐敗防止規制の概要(下) 平尾覚/梅田賢/細谷夏生(2017/02/20)

組織法務公益通報・腐敗防止・コンプライアンス

メキシコの腐敗防止規制の概要(下)

西村あさひ法律事務所

弁護士 平 尾   覚
弁護士 梅 田   賢
弁護士 細 谷 夏 生

 

1 近年の法改正の動向

⑴ 腐敗防止関連法令の法改正

 2016年7月、メキシコにおける腐敗防止体制[1]を強化するため、4つの新法[2]が制定され、3つの現行法が改正された。中でも、実務的影響が大きいと考えられるのは、2017年7月に施行が予定されている行政責任一般法(Ley General de Responsabilidades Administrativas)の制定である。

⑵ 行政責任一般法の概要

 (a) 贈賄に関する規定
 行政責任一般法は、公共調達汚職防止法(Ley Federal Anticorrupción en Contrataciones Públicas)及び連邦公務員行政責任法(Ley Federal de Responsabilidades Administrativas de los Servidores Públicos)に代わるものであり、公務員及び民間人双方の行政上の義務及び責任について規定する。
 同法は、贈賄を「重大な行政上の違反」(faltas administrativas graves)として定め、かかる「重大な行政上の違反」を犯した者を処罰対象とするほか、「重大な行政上の違反」が企業の利益のために企業を代理又は代表する者によって犯された場合には、当該企業も処罰対象とする。
 「重大な行政上の違反」について責任が認められた場合、当該行為の結果得られた利益の2倍以下の制裁金[3]、公共調達の入札参加禁止(個人については3か月以上8年以下、法人については3か月以上10年以下)、連邦の公共経済に与えた損害に対する補償、さらに法人について営業停止、解散命令など、非常に厳しい罰則が定められている。
 さらに、同法は、贈賄の定義を広く定めており、公務員に対する、直接又は第三者を通じた、当該公務員の職務又は他の公務員の職務に関連する行為又は不作為を対価とする、不正の利益の約束、申し出又は供与等が贈賄に該当するものとされている。
 また、同法は、現行法と同様にファシリテーションペイメントに関する除外規定を設けていない。しかし、同法は、贈賄を行う側の意図を問題としておらず、不正の利益が公務員の職務等と対価関係に立っていれば贈賄に当たるとしている。これにより、贈賄行為が、公務員の立場や権限、利益提供の時期、金額の多寡といった要素により客観的に認定されるおそれもある。そのため、たとえば、公務員に対する接待及び贈答について、これらの要素を総合考慮し、公務員の作為・不作為の対価であると認められるおそれはないかについて留意する必要が生じ、メキシコに進出している日本企業は、接待や贈答に関する内規を改定し、従業員に対するコンプライアンス教育を行って、公務員に対する接待及び贈答禁止の徹底を図ることが必要となる。

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