◇SH0765◇シンガポール:債務再編国際センター樹立へ(上) 長谷川良和(2016/08/23)

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シンガポール:債務再編国際センター樹立へ(上)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 長谷川 良 和

 

 日系企業による海外での企業活動が益々活発になる中で、企業が複数法域に及ぶ債務再編に遭遇する機会も増えつつある。具体的には、不幸にして債務再編の対象企業グループとなる場合もあれば、取引先の破綻時に債権者の立場で債務再編に関与する場合、あるいは再編手続下の事業の買収者として関与する場合等がその例として挙げられる。かかる複数法域に及ぶ債務再編の需要増加に呼応して、シンガポールは債務再編の国際センターとなることを目指して検討を進め、本年7月20日、その取組強化に向けた倒産法検討委員会の提言(「委員会提言」)を法務省が受け入れるに至った。委員会提言は、再編用の法的枠組強化、再編促進に向けた環境整備、及び認知度向上に向けた取組の3分野に大別され、全体で17項目にわたる。そこで、分野毎に委員会提言の要旨を2回に分けて紹介し、将来、日系企業が複数法域の債務再編に関与する場合の一つの枠組の可能性を示すこととしたい。

 

1. 再編用の法的枠組強化

 委員会提言は、再編用の法的枠組強化策として、再編に特化した手続の創設、再編用の実効性ある裁判制度の整備、及び代替的紛争解決手段を通じた倒産・再編に係る紛争解決手続の整備の3つの柱を掲げる。

(1) 再編に特化した手続

 委員会提言は、まず迅速かつ費用対効果の高い一定の再編を促進するため、それに特化した以下の事項を含む手続を整備すべきことを提唱している。

  1. ① 国外債務者企業に対しシンガポール裁判所の管轄を生じさせる規定
  2. ② 債権者による権利行使に関し、再編を促進する自動的な支払猶予効果の付与、対人的に全世界的効果を有する差止の申立て、及び支払猶予効果の関係会社への拡張申立てを認める規定
  3. ③ 必要な情報開示に関する規定
  4. ④ 同一裁判官による審理を可能とするための関係する倒産・再編手続の手続併合に関する規定
  5. ⑤ シンガポールにおける再編の承認及び執行の実効性向上に関する規定
  6. ⑥ プリパッケージ型の再編に関する規定

(2) 再編用の実効性ある裁判制度の整備

 また、委員会提言は、再編用の実効性ある裁判制度を整備する観点から、再編手続は専門裁判官によって審理されるべきこと、専門裁判官は倒産・再編事案の実務経験が豊富で高い評価を得ている者とすべきであり、倒産・再編事案の取扱いで著名な国際裁判官をシンガポール国際商業裁判所(SICC)で選定可能とすること、及び当該裁判官は再編事案の取扱いにあたり裁判官主導のアプローチを採用すべきことを提唱している。

(3) 代替的紛争解決手段を通じた倒産・再編に係る紛争解決

 加えて、委員会提言は、倒産・再編に関して紛争が生じた場合に調停や仲裁等の裁判所外での代替的紛争解決手段が利用しやすくなるよう、以下の事項を提唱している。

  1. ① 代替的紛争解決手段によってより適切かつ効率的に解決され得る問題や紛争がある場合には、裁判官は手続当事者に対し調停、仲裁又は他の適切な代替的紛争解決手段を検討するよう推奨する権限を有すべきこと
  2. ② シンガポール国際調停センター(SIMC)やシンガポール国際仲裁センター(SIAC)といった現地の調停機関及び仲裁機関は、潜在的利用者の勧誘に向けて倒産関連事項に特化した規則や手続を設けるべきこと
  3. ③ 調停機関や仲裁機関のパネルを強化し、国際債務再編の経験を有する専門の調停人や仲裁人を含めるための措置が講じられるべきこと
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