中南米諸国向けファイナンス取引に関する考察
ブラジル編(2)
西村あさひ法律事務所
弁護士 杉 山 泰 成
弁護士 松 本 直 己
3 ブラジルにおける物的担保等の種類と手続及び効果等
(1) 物的担保
ブラジル法人に対する金融取引を行う場合の保全方法の一つとして、借入人又は第三者から担保提供を受けることが考えられる。物的担保の場合には、担保対象の所在地国を準拠法とすることが原則的形態であるため、ブラジル法に基づく担保権の設定を受けるための手続、要件及び効果等を把握することが必要となる。
ブラジル法上認められている物的担保には大きく分類してMortgage(hipoteca)、Pledge(penhor)及びfiduciary lien(alienação/cessão fiduciária)が存在する。各物的担保に関する概要は以下のとおりである。
担保権の種類 |
担保対象物 |
担保の成立/対抗要件・担保契約の様式 |
執行手続 |
Mortgage
(hipoteca)
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不動産
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・ 日本の抵当権に類似する制度。所有権及び占有は借主に残存。
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・ 少額の場合を除き、公正証書により作成されなければならず、被担保債権の額、満期、利率及び不動産の記載がなければならない。
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・ 有効期間は最大30年(更新可能)。
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・ 不動産登記により対抗要件具備。
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・ 裁判所に対する申立により開始する。競売によって残債務が満足されない場合、当該債務が満額支払われるまで追加の差押えと競売がなされる。
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・ 債務者の破産手続が開始されると、当該手続外での担保不動産売買ができなくなる。充当順位としては、倒産債権及び賃金債権に劣後する。担保対象の不動産の競売額の全額を受け取る権利を有するわけではなく、競売額から優先して支払を受ける権利を有するにすぎない。
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Pledge
(penhor)
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動産、不動産、有価証券、債権、現金預金、知的財産
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・ 日本の質権に類似する制度。担保権者に占有が移される。但し、株式、社債、手形については銀行や他の金融機関に担保権者名義で保管されている場合、証券を担保権者に移転させる必要はないなど、占有移転が不必要となる場合もある。
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・ 債権者及び債務者によって書面で作成されなければならず、被担保債権の額、満期、利率及び担保の記載がなければならない。また、2人の証人を立てる。
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・ 登記により対抗要件具備。
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・ 株主名簿の記載変更(株式の場合)や、Brazilian National Institute of Industrial Propertyへの登録(知的財産の場合)など、その他適切な手続が必要な場合もある。
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・ 債務者又は設定者の同意のある場合や、契約に規定のある場合でない限り、担保権者は担保物を裁判外で私的に売買して執行することはできない。また、その場合であっても、債務者が担保権者に売買に関する代理権を付与する規定が必要となる。
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・ 私的執行ができない場合、裁判所に対して執行の開始を申立てなければならない。競売によって残債務が満足されない場合、当該債務が満額支払われるまで追加の差押えと競売がなされる。
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・ 債務者の破産手続における取扱はmortgageを参照。
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Fiduciary Lien
(alienação/cessão fiduciária)
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総論
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・ 日本の譲渡担保に類似する制度。債務者から債権者へ担保の所有権を仮に移転し、被担保債務が弁済された場合、当該所有権が自動的に債務者へ返還される。
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・ 書面で作成されなければならず、被担保債権の額、満期、利率及び担保の記載がなければならない。
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・ 所有権が債権者に移っているため、債務者の破産手続開始や更生計画の影響を受けない。
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不動産(real estate fiduciary transfer)
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・ 競売の際の最低金額の評価をしなければならない。
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・ 外国人又は外国法人による地方の不動産の取得が禁止されている関係上、地方の不動産には設定できない。
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・ 不動産登記により対抗要件具備。
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・ 満期到来後に支払いが行われない場合、grace period(猶予期間)開始し、猶予期間が終了すると、債権者は担保物の所有権を取得する。その後、債権者は最低金額は契約で定めた額として、第1回裁判外競売(the first extra-judicial auction)を行わなければならない。落札されなかった場合、最低金額を被担保債権額と諸費用の合計額として第2回裁判外競売(the second extra-judicial auction)を行う。なお落札されなかった場合、債権者は所有権を保持でき、負債は返済されたものとされる。
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動産(Fiduciary property/transfer)、有価証券、債権、現金預金、知的財産(fiduciary transfer)
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・ それぞれの担保物について適切な登記により対抗要件具備。
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・ pledgeと同様、担保物によって適切な手続が必要な場合がある。
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・ 債権者は法廷内/外を問わず、担保物を売買することができる。但し、債権が満足された後の残価は債務者に返還する。
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(2) 担保類似取引
ブラジルにおいては、セールアンドリースバック、ファクタリング及び割賦売買取引は、担保取引の代替手段として一般的には用いられていないようである。一方、所有権留保取引は、不動産取引を中心に一般的に用いられている。
(注)本稿は法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法又は現地法弁護士の適切な助言を求めて頂く必要があります。また、本稿に記載の見解は、公開情報・資料をベースとした執筆者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所又はそのクライアントの見解ではありません。