メキシコにおける労働紛争手続に係る憲法改正案
西村あさひ法律事務所
弁護士 梅 田 賢
1 はじめに
近時多くの日本企業がメキシコに進出する中、メキシコ人の従業員を抱える日系企業にとって、労働問題は重要な懸案事項である。他方で、メキシコ憲法第123条は、労働者の保護を目的とした、非常に詳細な規定を定めており、メキシコの連邦労働法(以下、「労働法」という。)を含め[1]、メキシコの労働法制は労働者保護に厚いことで知られている。
そして、現行のメキシコ憲法において、労働紛争解決のためには調停・仲裁委員会(Juntas de Conciliación y Arbitraje)を利用しなければならない旨が定められているところ、エンリケ・ペニャ・ニエト大統領は、2016年4月28日に、調停・仲裁委員会に関する規定を含むメキシコ憲法107条及び123条の改正案(以下、「本憲法改正案」という。)を提出し、同年10月13日に、本憲法改正案がメキシコ連邦国会の上院によって承認され、さらに11月4日に下院によっても承認された。
今後、州議会の過半数の承認により、本憲法改正案が成立した場合、これまで労働紛争解決手段として利用されてきた調停・仲裁委員会が廃止され、労働紛争については新たに設置される調停センター及び労働裁判所を通じて解決されることとなる。
そこで、本稿では本憲法改正案の概要について、現行制度の概要と併せて紹介する。
2 現行制度と本憲法改正案の概要について
⑴ 現行制度
現行のメキシコ憲法上、労働者と雇用者の雇用関係から発生する全ての労働紛争は、連邦及び州に設置される行政機関である調停・仲裁委員会において取り扱われるものとされている[2]。調停・仲裁委員会は、政府(連邦又は州)、労働者組織及び使用者組織の各代表から構成され、当事者間で調停手続による和解が成立しない場合は、仲裁が行われることになる。
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