◇SH0794◇冒頭規定の意義―典型契約論― 第10回 冒頭規定の意義―制裁と「合意による変更の可能性」―(7) 浅場達也(2016/09/13)

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冒頭規定の意義
―典型契約論―

冒頭規定の意義 -制裁と「合意による変更の可能性」-(7)

みずほ証券 法務部

浅 場 達 也

 

Ⅰ 冒頭規定と制裁(1) ―金銭消費貸借契約を例として―

(5) 「借用概念」との相違

 冒頭規定の大きな特徴は、民法とは別の法律の中にそのまま組み入れられることである。これが、租税法上の「借用概念」を想起させることは、既に触れた(第6回 注[1] を参照)。ここで、上述の冒頭規定の特徴と「借用概念」との相違について、簡単に述べておこう。

 租税法が用いる概念の中には、2種類のものがあるとされている。1つは、租税法が独自に用いている概念としての「固有概念」であり、もう1つは、他の法分野で用いられ、すでにはっきりした意味内容を与えられている概念としての「借用概念」である[1]

 民法上の概念が他の法律でも使われるという点で、上で示した「別の法律にそのまま組み入れられる」という冒頭規定の特徴とこの「借用概念」は、類似するといえるかもしれない。しかし、以下の2つの理由から、上の冒頭規定の特徴と「借用概念」とは区別されるべきであると考えられる。

 第1として、租税法上の「借用概念」は各種の経済活動を、私法概念を用いて課税要件規定の中に取り込み、徴税の対象としようとする。すなわち、「借用概念」は、2つの実定法上で(私法と租税法という2つの実定法上で)使われる概念の関係を示す考え方ということができよう。これに対して、上で示した冒頭規定の他の法律への組み入れにおいては、出資法、貸金業法、利息制限法等が形式的に消費貸借の冒頭規定の内容をそのまま取り込む点に着目するものの、焦点を当てる対象は、それらの法律が適用対象とする金銭消費貸借契約書の内容である。すなわち、2つの実定法(民法と出資法(又は貸金業法、利息制限法))が適用される「金銭消費貸借契約書」が主たる検討の対象である。この「契約書の内容に焦点を当てる」という点において、上で捉えた冒頭規定の特徴は、「借用概念」の内容・機能とは異なるものといえるだろう。

 第2として、「借用概念」は、提唱者である金子宏教授の名とともに租税法上の概念として考えられている。「租税法が用いている概念の中には、2種類のもの(『固有概念』と『借用概念』)がある[2]」とされていることからも窺えるように、現時点で、「借用概念」は、租税法特有の概念と考えられているといえるだろう。これに対して、本稿では、租税法の制裁を視野に入れているものの、それはあくまで考慮すべき多様な制裁の一部であり、契約書の作成に際して「何らかの不利益=制裁」をもたらすあらゆる法律(租税法を含むがこれに限らず、刑法・広義の公法・私法等を含む)を視野に入れる必要があると考えている点で、「借用概念」という考え方とは対象となる法律の範囲が大きく異なっている。

 以上の2点から、上述の冒頭規定の特徴は、「借用概念」とは異なっていると考えられる。

 


[1] 金子宏『租税法〔第12版〕』(弘文堂、2007)102頁を参照。租税法上、「借用概念」については、それを他の法分野において既に与えられている意味内容と同義に解すべきか、或いは、徴税確保の観点から別義に解すべきかが問題となる。

[2] 金子・前掲注[1] 102頁を参照。

 

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