◇SH3879◇インドネシア:オムニバス法の制定(19)〜条件付き違憲判決 中村洸介(2022/01/17)

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インドネシア:オムニバス法の制定(その19)
〜条件付き違憲判決

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 中 村 洸 介

 

 2021年11月25日、インドネシアの憲法裁判所は、雇用創出に関する法律(2020年法第11号。通称「オムニバス法」)について、その制定過程における手続上の瑕疵を理由に条件付き違憲判決を下した。

 

 2020年11月2日に制定されたオムニバス法は、投資促進による雇用機会の創出を目的として、労働法、投資法、会社法、独占禁止法、入国管理法、所得税法等の主要な法律を含む約80の法律の関係条文を一度にまとめて改廃した法律である。2021年2月には約50の施行規則が政令又は大統領令として制定され、実務レベルでもオムニバス法の運用が開始されている。

 

 かかるオムニバス法については、外資規制の大幅な緩和をはじめインドネシアの投資環境の改善を図るものであり、企業や経済界等を中心に国内外から好意的に評価されている。他方で、比較法的に見ても労働者の保護に手厚いインドネシアの労働法に関して、退職金の計算方法等雇用者側に有利な改正も含まれていること等もあり、制定前からデモが行われるなど、労働者団体等による反対も強い。そのような状況にもかかわらず政府はオムニバス法の制定を強行したとして、立法過程の不備を指摘する見解も制定直後から見られ、実際に憲法裁判所に対して複数の違憲審査の申立てがなされていた。

 

 今回の条件付違憲判決に関する主な内容は、以下のとおりである。なお、本判決には遡及的な効果はなく、オムニバス法及びその施行規則に基づいて既に適法に発行された事業許認可や、企業による労働者の解雇や退職金の支払い等はいずれも有効であると考えられている。

 

  1. 1. オムニバス法の制定過程においては、①法令の制定に関する法律(2011年法第12号)の定める必要な手続きが行われなかった、②法案が国会で可決された後に実質的な修正が加えられた等の手続上の瑕疵がある。
  2. 2. 憲法裁判所は、立法者に対して、2年以内に瑕疵を是正してオムニバス法を改正することを命じている。
  3. 3. オムニバス法は、本判決後も少なくとも2年間は引き続き有効であるが、仮に2年以内に改正がなされなかった場合、恒久的に無効となる。
  4. 4. 瑕疵が是正されるまでの間、インドネシア政府がオムニバス法に関連する新たな施行規則を制定することは禁止される。

 

 本判決を受け、インドネシア政府は判決内容を受け入れて是正する旨発表している。その具体的な方法やタイミングは明らかではないが、今後オムニバス法の改正に向けた動きやその実務上の影響について注視していく必要がある。

 


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(なかむら・こうすけ)

2011年早稲田大学大学院法務研究科修了。2012年弁護士登録(第一東京弁護士会)。2019年Columbia Law School卒業(LL.M.)。

2012年に長島・大野・常松法律事務所に入所し、M&A案件を中心に国内外の企業法務全般に従事。ジャカルタ・デスク勤務(2019年10月~2020年)を経て、現在はシンガポール・オフィスに所属し、インドネシアをはじめ東南アジアへの日本企業の事業進出や資本投資、その他現地での企業活動全般についてアドバイスを行っている。

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

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