◇SH0011◇インドネシア:ネガティブリストの改正 福井信雄(2014/06/30)

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インドネシア:ネガティブリストの改正

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 福 井 信 雄

1.改正の概要

 「新ネガティブリストが施行されたようです。」  現地から第一報が入ってきたときには、既に施行日から数日が経過していた。またか、というのが正直な感想だった。インドネシアでは、新法の制定後、公布を経ずに直ちに施行されるため、新法の施行後しばらくは周知されずに過ぎていたということが珍しくない。今回の新ネガティブリストも4月23日に大統領が署名したことにより制定、翌24日に直ちに施行されていた。

 ネガティブリストとは、インドネシアにおける規制業種を定めたリストの通称で、今回制定された「閉鎖されている事業分野及び条件付きで開放されている事業分野の一覧に関する大統領令2014年第39号」(以下、「大統領令39号」という。)では別表Ⅰ及び別表Ⅱとして規定されている。前回のネガティブリスト(大統領令2010年第36号)の改正がなされたのが2010年5月であったことから、4年ぶりの改正である。

 インドネシアの投資法(2007年法第25号)(以下、「投資法」という。)は、外資に対しても事業を開放するという原則を謳いながらも、その下位法令である大統領令において「例外的」に規制する業種を広範に定めている。外国投資を呼び込み国内の経済成長の原動力として利用しつつ、他方で国内事業者の保護・成長のために一部の業種については外資の参入を制限するという、二律背反的にも映るこの2つの政策の均衡点がネガティブリストであり、従ってその時のインドネシア政府の政策的判断が色濃く投影されることになる。

 では今回のネガティブリストの改正では、外資に対する規制は緩和されたのだろうか。答えはノーである。業種によっては緩和された分野もあるが、全体的に見ると外資規制を強化する方向での政策的判断が働いたと評価するべきだろう。実際、5月に実施された投資調整庁による新ネガティブリストの説明会でも、国内事業者の保護・育成という観点から外資規制を見直したという点が繰り返し述べられた。本稿では以下、今回の改正により外資規制が強化された事業分野の中から流通販売業を取り上げて解説する。

 

2.流通販売業に対する外資規制

 インドネシアでは、以前から小売業(Retail)に対しては幅広く外資の参入が制限されていたが、卸売業(Wholesale)に関しては、原則制限はなかった。今回のネガティブリストの改正では、外資の参入が禁止される小売業の事業類型が増加するとともに、流通販売業(Distribution)及び倉庫業(Warehouse)について、33%の外資出資比率の上限が設定され、流通業における外資規制の強化という方針が鮮明に打ち出された。(その他の改正点も含め下表参照。)これにより、これまで日本企業がインドネシアで自社製品を販売する場合に使われてきた、インドネシア国内に100%子会社を設立し、その現地子会社が当該製品の輸入と現地販売代理店等への卸売りを行うという商取引モデルが今回の外資規制によりできなくなるのではないかという懸念が提起された。この点、上述の投資調整庁による説明会では、今回の規制の対象となる流通販売業のなかには輸出入取引を伴う流通販売業は含まれず、また、インドネシア国内で調達した物品を販売(卸売)する場合でも大規模商業という別カテゴリーに該当する場合には今回の規制の対象から外れ、依然100%外国資本による現地法人により扱うことが認められるとの見解が示された。この見解に従えば、これまでのビジネスモデルが直ちに利用できなくなるということはなさそうだが、今後どのような流通販売業が規制の対象になるのか、その具体的な境界線が明確に提示されたとは言い難い。法律上一義的に解釈が決まらない点については、事実上、関連官庁の実務の運用に委ねられることから、今後もこの点については投資調整庁や商業省の見解を注視しておく必要がある。

 

販売流通事業分野における外資規制の改正点

事業内容

改正前

改正後

流通販売

規制無し

33%

倉庫

規制無し

33%

冷蔵倉庫(スマトラ、ジャワ、バリ)

規制無し

33%

冷蔵倉庫(カリマンタン、スラウェシ、ヌサ・トゥンガラ、マルク、パプア)

規制無し

67%

小売業(織物、化粧品、電化製品、履物、玩具、食料品、飲料)

規制無し

外資不可

通信販売又はインターネットを介した小売業

規制無し

外資不可

 

 

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