『コンメンタール会社計算規則・商法施行規則〔第3版〕』の背景
筑波大学ビジネスサイエンス系 (ビジネス科学研究科)
教授 弥 永 真 生
3つの動機
第1の動機は、会社法と会計学・監査論との間の通訳者になりたいという野望?です。いろいろなことに興味をもってはいるものの、研究のコアを成しているのは、法と会計と会計との交錯領域に関するものです。大学2年生のときに、公認会計士を目指して会計学や監査論を勉強しましたが、試験勉強の過程で、商法・商法特例法に強い興味を持つようになり、法学部に学士入学させていただき、なんとか卒業させていただいたばかりでなく、幸運にも助手に採用していただいて、「取得原価主義の再検討」という論文を書くことができました。それ以来、法律学の研究者や法曹・実務家の方々には会計学の発想を、会計学・監査論の研究者・実務家の方々には法律学(=会社法)の発想を、伝えることができればと考えつつ、大学院で教え、研究に励んできました。そして、平成15年に書かせていただいたのが『コンメンタール商法施行規則』でして、それを改訂してきたのが本書です。
第2の動機は、会社法は法務省令に多くを委任しているにもかかわらず、類書が少ないということです。能力や努力の面で他の研究者に必ずしも伍していく自信がないのであれは、他の方々と比較されないようなことをするしかありません。また、法務省の方々が旬刊商事法務に解説を書いて下さるのですが、後になってからどの号の何頁に書いてあったかを探すのは大変です。そこで、コンメンタール形式にまとめておけば、自分自身の研究や教育を効率的に行うためにも役立つのではないかと考えました。
第3の動機は、本書及び姉妹書である『コンメンタール会社法施行規則・電子公告規則』の改訂をいずれはしたいと思えば、法務省令や会社法その他の法令の改正や会計基準・監査基準の改廃、そして裁判例について、常にアンテナを張り、勉強しようという意欲がわきます。また、つい、限られた分野だけを研究の対象としがちなのに対して、まんべんなく、会社法の全分野をフォローするという動機づけが与えられます。
3つのたのしみ
第1に、法文の1つ1つの言葉の選択の裏側には意味があるのだと意識できます。『コンメンタール商法施行規則』などを執筆する過程で、『法制執務提要』などを読む必要があり、それによって、条文の見え方が変わりました。たとえば、会社計算規則3条は、「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準その他の企業会計の慣行」と表現していますが、「その他の」には、企業会計の基準は企業会計の慣行の部分集合であると立案者は考えていることがわかります。「その他」と「その他の」とが会社法で使い分けられていることに対応して、きちんと法務省令の規定は作られているのだということも興味深いです。また、他の法令などをふまえて条文が作られていることにわずかですが心を配ることができるようになりました。
第2に、法務省の方々はかなりマニアックに会社法関連法務省令を立案・改正されているのだということを発見することも楽しく、これに気づく方はおそらく少ないのではないかと思えるときには、ちょっとうれしく感じられます。たとえば、平成23年3月31日法務省令第6号(同日の官報号外に掲載)には、「第百三条第五号中「手形遡求債務」を「手形遡求債務」に改める。」とあり、どこが改正されたのかとても悩みました。よく見たら、改正前は一点しんにょう、改正後は二点しんにょうの遡でした(新常用漢字表に合わせた)。
第3に、大学の授業では絶対に取り上げないし、論文の対象としていないため、体系書(たとえば、江頭先生の『株式会社法』)や注釈書(『新版注釈会社法』や『会社法コンメンタール』)の中で目を通すことがまずなかったであろう部分(たとえば、特別清算や非訟)を、本書の執筆や改訂のためにきちんと読んでみたところ、それぞれの著者が意外と?興味深い指摘をなさっていることに気づくことがまれではありませんでした。
弥永 真生 著 |