◇SH1096◇消費者庁、GMOインターネット株式会社に対する景品表示法に基づく措置命令 鈴木友一(2017/04/05)

未分類

消費者庁、GMOインターネット株式会社に対する景品表示法に基づく措置命令

岩田合同法律事務所

弁護士 鈴 木 友 一

 

1 本件及び近時の同種事案

 消費者庁は、平成29年3月22日、GMOインターネット株式会社(以下「GMO」という。)に対する不当景品類及び不当表示防止法(以下「景表法」という。)に基づく措置命令を行った[1]

 GMOは、表示した期限までに対象のインターネット接続サービスの提供を申し込んだ場合に限り、同サービスの月額料金を最大6か月間無料とするかのように表示していたが、同期限後に同サービスの提供を申し込んだ場合にも、同サービスの月額料金を最大6か月間無料としていた点につき、有利誤認表示(対象役務の取引条件について、実際のものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示をいう。景表法5条2号)に該当するとされたものである。

 本件のように、本来は申込時期により条件が異ならないにもかかわらず、一定期間内の申込みに限って有利な条件が適用されるかのように表示した広告等に関しては、平成28年2月16日に弁護士法人アディーレ法律事務所に対して措置命令が発令されて以降、平成29年2月2日に株式会社Xenaに対し、さらには、本件直後の同年3月24日に株式会社エネルギア・コミュニケーションズに対し、それぞれ措置命令が発令されている。この種の広告等に対する消費者庁の強い問題意識が窺われる。

 

2 景表法の課徴金制度

  1. ⑴  ところで、平成28年4月1日、改正景表法が施行され、景表法にも課徴金制度が導入されるに至った。本件においてGMOが対象表示を行っていた期間は遅くとも平成27年9月1日から平成28年2月25日と認定されているため、本件は課徴金の対象にはならないが、消費者庁は違反行為が要件を充たす場合には課徴金の納付を命じなければならないとされていることもあり(景表法8条1項)、今後は適用事例の増加が見込まれる[2]
     そこで、以下は、景表法の課徴金制度につき、特徴的な点を中心に解説する。
  2. ⑵  課徴金の対象行為となるのは、本件と同じ有利誤認表示のほか、優良誤認表示(商品又は役務の品質・規格等について、実際のものよりも著しく優良であると誤認させる等の表示をいう。景表法5条1号)の2つの行為類型であるが(景表法8条1項)、まず特徴的なのは、その課徴金の対象期間の定め方である。消費者に対するこれらの不当表示の影響を実質的に考慮する定め方となっており、若干複雑なものの、詳細は以下のとおりである(同条2項、図1参照)。
    1.  ① : 原則として、課徴金対象行為を始めた日からやめた日までの期間が対象になる。
    2.  ② : 当該行為をやめてから最後に取引をした日までの期間(最大6か月)も対象になる。
    3.  ③ : ②の期間のうちに、一般消費者の誤認のおそれを解消する措置をとった場合には、②の期間は当該措置をとった日までに短縮される。
    4.  ④ : ①ないし③に従った期間が3年を超える場合には、当該期間の末日から遡って3年が課徴金対象期間となる。

図1:課徴金対象期間の考え方[3]

  1. ⑶  また、景表法では、事業者が違反行為を自主申告した場合に課徴金を減額する制度が設けられているが(景表法9条)、それに加え、被害回復の促進の観点から、顧客に対する返金措置を所定の手続に従って実施することにより課徴金を減免する制度が設けられている(同10条、11条)。課徴金制度を有する他法には見られない、一般消費者の利益保護という景表法の目的をよく反映した制度といえる。
     手続は以下のとおりである(図2参照)。返金を実施した金額は課徴金額から減額される[4]
    1.  ① : 課徴金納付命令案の通知を受けた事業者が、顧客に対する返金措置計画を作成し、消費者庁長官に提出する。
    2.  ② : 消費者庁長官が、当該返金措置計画につき認定を行う。
    3.  ③ : 事業者が、当該返金措置計画に従って返金を実施し、計画に定めた実施期間の経過後1週間以内に、消費者庁長官に報告する(①の前に実施していた返金についても報告する。)。
    4.  ④ : 消費者庁長官が、当該返金措置計画に適合して返金が実施されたと認めるときは、返金額を課徴金額から減額する。

図2:返金措置の手続[5]

 

3 まとめ

 事業者にとっては、これまでも景表法違反の措置命令を通じたレピュテーションダメージ等は看過できないものであったが、課徴金という金銭面での制裁も加わることで、発生し得る不利益はより一層大きなものとなった。今後、事業者に対しては、より慎重かつ十分な検討を経た上で、広告等の実施判断を行うことが求められるところであり、かつ、本稿で紹介したような有利誤認表示に該当する可能性がある事案についてはより一層の注意を要しよう。

以 上



[1] 景表法上の内閣総理大臣の権限は、消費者庁長官に委任されている(同法33条1項)。

[2] ただし、平成29年3月末時点で、景表法違反行為に対して課徴金納付命令が発令されたのは、三菱自動車工業株式会社に対する1件のみである。なお、株式会社エネルギア・コミュニケーションズが対象表示を行っていた期間(平成27年2月1日から平成28年7月15日まで)には改正景表法施行後の期間も含まれるが、平成29年3月末時点では同社に対して課徴金納付命令は発令されていない。

[3] 消費者庁開催の「景品表示法に導入される課徴金制度に関する説明会(事業者等向け)」資料(平成28年3月17日同庁ホームページ掲載)より。

[4] 返金の結果、課徴金額が1万円未満になると、課徴金の納付自体命じられないこととなる(景表法11条1項ないし3項)。

[5] 脚注3に同じ(消費者庁開催の「景品表示法に導入される課徴金制度に関する説明会(事業者等向け)」資料(平成28年3月17日同庁ホームページ掲載)より)。

 

タイトルとURLをコピーしました