ブラジルの業務委託及び労働者派遣に関する改正について
西村あさひ法律事務所
弁護士 古 梶 順 也
1. はじめに
2017年3月31日、ブラジルにおいて、1998年の法案提出以来議論されてきた(ⅰ)業務委託[1]に関する規制及び(ⅱ)労働者派遣に関する規制の変更について定める改正法(法律2017年第13429号。以下「本改正法」という。)[2]が成立し、発効した。
本改正法は、業務委託に関して従来許容されていなかった中核的事業に関する業務委託を認める点や労働者派遣に関して同一の派遣労働者を臨時雇用できる期間を延長する点等、日本企業の労務コスト削減につながりうる内容を含んでいることから、本稿においてその概要を紹介する。
2. 業務委託
(1) 従前の規制
ブラジルにおいては、従前、業務委託について一般的に規律する法律はなく、労働最高裁判所判例第331号によって規律されていた。
当該労働最高裁判所判例においては、業務委託は、(ⅰ) 委託の対象となる業務が委託元企業の中核的事業に関連するものではないこと、(ⅱ) 委託の対象となる業務が委託元企業と独立して運営されること、という2つの要件を充たす場合にのみ許容されていた。かかる要件を充たさない場合には、委託元企業と委託先企業の従業員との間に雇用関係が存在するものとみなされ、委託元企業は、委託先企業と連帯して当該委託先企業の従業員に対する労働法上の義務について責任を負うとされていた。
このように、従前は、業務委託は中核的事業に関連しないもの(非中核的事業)についてのみ認められていた。もっとも、かかる中核的事業、非中核的事業の概念は明確ではなく、業務委託の対象となる業務が非中核的事業に該当するかどうかについて多くの訴訟において争われていた[3]。
(2) 本改正法の主なポイント
本改正法の成立により、業務委託は、判例ではなく法律によって規律されることとなった。そして、最も重要な点として、本改正法により、対象となる業務が非中核的事業に該当するかどうかにかかわらず、業務委託が認められることが明確化された。すなわち、本改正法の下では、中核的事業に該当する業務についての業務委託も認められる。
また、本改正法においては、業務委託に係る委託元企業の責任に関して、主に以下の点が定められている。
- ⅰ. 委託元企業と委託先企業の従業員との間には雇用関係は成立しない。
- ⅱ. 委託元企業は、委託先企業との間の契約で定めた業務以外の業務に委託先企業の従業員を従事させてはならない。
- ⅲ. 委託元企業は、委託期間に係る委託先企業の従業員に対する労働法上の義務の履行について補充的な責任を負う[4]。
- ⅳ. 委託元企業は、自らの施設又は契約において事前に定められた場所において労務提供が行われる場合に、委託先企業の従業員に対して、安全・衛生・健康面に関する良好な労働環境を保証しなければならない。
- ⅴ. 委託元企業は、委託先企業の従業員に対して、自己の従業員に提供するのと同等の医療・食事サービスを提供しなければならない。
すなわち、委託元企業は、委託先企業の従業員との間に雇用関係は成立しないにもかかわらず、もし、委託先企業が、裁判所による履行命令にもかかわらず、その従業員に対する労働法上の義務(給与の支払い等)を履行しない場合には、委託先企業に代わって、委託期間に係る当該義務を履行しなければならない。
また、安全・衛生・健康面に係る責任については、委託元企業は、委託先企業の従業員に対して直接的な責任を負うことになるため、委託先企業の履行の有無にかかわらず、委託元企業は責任を負うことになる。例えば、労働災害に関する補償や健康リスクのある仕事や危険な仕事に対する割増手当の支給等が安全・衛生・健康面に係る責任に含まれうると考えられる。
3. 労働者派遣
(1) 従前の規制
ブラジルにおいては、従業員の一時的な代替や季節的な労働需要や予期せぬ労働需要への対応のために、適法に登録された派遣会社から派遣される派遣労働者を臨時雇用することができるものとされていた。
同一の派遣労働者を臨時雇用できる期間は法定されており、これまでは原則最長90日間、更に90日間の延長ができるものとされていた。
派遣先企業の派遣労働者に関する責任については、派遣先企業は、派遣会社が破産した場合に、派遣労働者から社会保険料を徴収する責任を派遣会社と連帯して負うものと定められていた。
(2) 本改正法の主なポイント
本改正法の最も重要な点として、同一の派遣労働者を臨時雇用できる法定期間が、原則最長180日間となり、かつ、臨時雇用を必要とする状況が継続していることが証明された場合には更に90日間の延長ができることとなり、大幅に伸長された。また、当該法定期間の満了後に、派遣先企業が、同一の派遣労働者を再度雇用するためには、従前の契約期間終了後90日間待たなければならない点が明記された。
他方、法令で別途許容されている場合を除き、ストライキを行っている従業員を派遣労働者で代替することはできないとされた。
さらに、本改正法においては、労働者派遣に係る派遣先企業の責任に関して、主に以下の点が定められている。
- ⅰ. 派遣先企業と派遣労働者との間には雇用関係は成立しない。
- ⅱ. 派遣先企業は、派遣期間に係る派遣企業の派遣労働者に対する労働法上の義務の履行について補充的な責任を負う。
- ⅲ. 派遣先企業は、自らの施設又は自らの指示する場所において労務提供が行われる場合に、派遣労働者に対して、安全・衛生・健康面に関する良好な労働環境を保証しなければならない。
- ⅳ. 派遣先企業は、派遣労働者に対して、自己の従業員に提供するのと同等の医療・食事サービスを提供しなければならない。
ⅱ. の補充的責任とⅲ. の安全・衛生・健康面に関する責任については、上記2.(2)において業務委託に係る委託元企業の責任に関して指摘した点と同様の点を、労働者派遣に係る派遣先企業の責任に関しても指摘できる。
以 上
- (注) 本稿は法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法又は現地法弁護士の適切な助言を求めていただく必要があります。また、本稿記載の見解は執筆者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所又はそのクライアントの見解ではありません。
[1] 文献によってはアウトソーシングという用語を使用しているものもあるが、本稿においては業務委託という用語を使用する。
[2] 法律2017年第13429号は、従前労働者派遣の規制について定めていた法律1974年第6019号を改正するものである。
[3] 実際に紛争になった事例として、コールセンター業務は、委託元企業の非中核的事業に該当するかどうか等がある。
[4] なお、当該補充的責任については、労働最高裁判所判例第331号の下での適法な業務委託についても認められていた。