◇SH1316◇ブラジルの倒産手続について(1) 後藤泰樹/古梶順也(2017/07/31)

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ブラジルの倒産手続について(1)

西村あさひ法律事務所

弁護士 後 藤 泰 樹

弁護士 古 梶 順 也

 

1. はじめに[1]

 ご存じのとおりブラジルでは一昨年、昨年と歴史的不況に見舞われ、負債額が史上最大となった昨年6月の通信事業最大手Oiの再生手続申立てを筆頭に、数多くの倒産手続の申立てがなされている。その後、ジウマ・ルセフ前大統領の弾劾による罷免を受けて、昨年8月に新たに大統領に就任したミシェル・テメル新大統領が打ち出した経済成長政策に対する期待感から、レアル相場、ブラジル株相場は回復基調にはあったが、テメル大統領にまつわる汚職問題を受けて相場は一時急落し、また、それまでの不況による爪痕は深く、取引先のブラジル企業による倒産手続申立てを経験したり、あるいは、ブラジル事業からの撤退にあたり現地法人の倒産手続申立てを検討する日本企業も少なくないと思われる。

 本稿では、上記の状況を踏まえて、ブラジルにおける一般的な倒産手続の概要を説明する。

 

2. 倒産手続の種類

 ブラジルでは、企業(公的企業、金融機関等の一部の企業を除く。)や個人事業主の倒産手続を規定する法律として、2005年に全面的に改訂された倒産法(2005年法律第11101号。以下、「倒産法」という。)があり、同法のもと、清算型の手続として①破産手続(Falência)、再建型の手続として②裁判上の再生手続(Recuperação Judicial)と③裁判外の再生手続(Recuperação Extrajudicial)の計3種の倒産手続が規定されている。このうち、実務的に最も利用されているのが裁判上の再生手続で、債務者としては事業の存続を前提とする裁判上の再生手続を好み、破産手続の要件を充たす可能性が高い場合であっても、まずは破産手続ではなく、裁判上の再生手続を申し立てる場合も多くあるようである。裁判外の再生手続は、破産手続や裁判上の再生手続と異なり、原則として債権者に対する停止効(下記3.(2)A.参照)を有しないこともあって利用件数は非常に少ないが、近年Odebrecht Oil and GasやColomboといった大企業が裁判外の再生手続を利用するなど利用例が少しずつ増えてきている。

 

3. 破産手続

 ブラジル倒産法における破産手続は、日本における破産手続と同様、裁判所により選任された管財人が資産を換価し、債権者に配当する手続である。

(1) 申立て

A. 申立権者
 破産手続は、債務者のみならず、債権者も申立てを行うことができる。なお、株式会社(Sociedade Anônima)である債務者が破産手続を申し立てる場合、原則として株主総会の承認が必要となりるが、緊急の場合には、支配株主の同意を得て申立てを行い、事後的に株主総会の承認を得るという形で進めることも可能である。

B. 債務者による義務的申立て
 債務者は、経済的・財政的危機に陥り、かつ、裁判上の再生手続の申立要件を充足していない場合は、破産手続の申立てを行わなければならないとされている。

C. 債権者による申立て
 債権者は、以下のいずれかに該当する場合には、債務者に対する破産手続を申し立てることができる。

  1. (ⅰ) 債務者が、40ヵ月分の法定最低賃金を超える額の執行証書に基づく債務(なお、複数の債権者が共同で申し立てる場合には、当該基準を充足するかの判断にあたり債権額を合算することができる。)につき弁済期限までに弁済を行わないとき
  2. (ⅱ) 債務者が、金銭債務の強制執行に対して所定の期間内に、債務の弁済、供託又は差押えの対象となり得る十分な財産の指定を行わないとき
  3. (ⅲ) 債務者が、裁判上の再生手続に係る再生計画によらずに、有害又は詐欺的な方法による債務の弁済や支払を遅延させる目的又は債権者を欺く目的による財産の架空取引といった倒産法第94条第3号に定める一定の行為を行ったとき

 債権者による破産手続の申立てに対し、債務者が10日以内に反論書を提出した場合、又は、債務者が利息及び弁護士費用等を含む債務全額に相当する金額を供託した場合(但し、上記(ⅰ)又は(ⅱ)の理由による申立ての場合に限る。)には、破産手続の開始を回避することができる。

D. 申立ての効果
 破産手続の申立て自体には、米国のチャプター7(破産手続)やチャプター11(再生手続)の申立てに認められるような、債権者の訴訟手続や強制執行を停止する効力(オートマティック・ステイ)はない。もっとも、後述するように、破産手続の開始決定がなされた場合には、自動的に債権者の訴訟手続や強制執行は停止させられる。

(2) 破産手続開始決定

A. 破産手続開始決定の効力
 破産手続開始決定によって、債務者に対するあらゆる訴訟手続及び強制執行(担保権の実行を含む。)が原則として停止される。後述する裁判上の再生手続開始決定の場合とは異なり、当該停止効に期間制限はない。
 債務者に対する全ての債権者(申立日に存在するかどうかは問わない。)が、かかる停止効の対象となることになるが、債権者に担保として信託譲渡(alienação/cessão fiduciária)されている財産については、債権者は当該停止効の影響を受けることなく破産手続外で権利行使ができるとされている。
 破産手続開始決定により、弁済期限が未到来の債権も弁済期限が到来するが、利息相当額についてディスカウントした債権額に調整される。また、破産手続開始決定がなされた日以降の利息は、担保権が設定されている場合を除き、原則として請求できなくなる。なお、外貨建債権については、破産手続開始決定日の為替レートによってブラジルレアル建ての債権に変更される。

B. 管財人の選任
 破産手続開始決定にあたり、破産財団を管理し、破産財団に属する財産の換価処分、債権者への弁済等を実施する管財人が裁判所により選任され、これにより、債務者は、破産手続開始決定日以降、その事業活動に従事する資格及びその財産を処分・管理する権利を失う。

C. 相殺
 債権者は、破産手続開始決定後であっても、破産手続開始決定時点までに弁済期限が到来している債権(破産手続開始決定により弁済期限が到来する場合も含む。)と、債務者に対して負担する債務との間で相殺を行うことができる。

 但し、(ⅰ)破産手続開始決定後に債権を取得した場合(合併又は会社分割により承継した場合を除く。)、(ⅱ)債務者の経済的・財政的危機を認識した後に債権を取得した場合、又は(ⅲ)詐欺若しくは悪意により債権を取得した場合には、債権者は当該債権による相殺を行うことができないと考えられている。

D. 双務契約の取扱い
 双務契約については、破産手続開始決定により当然終了するわけではなく、当該双務契約の遵守が債務者の債務を減少させるか、債務の増加を防ぐ場合又は債務者の資産を保護するために必要な場合には、管財人は、当該双務契約を履行することを選択することができる(但し、債権者委員会[2]が設置されている場合にはその承認を得る必要がある。)。双務契約の相手方は、管財人が選任されてから90日以内に、管財人に対して当該双務契約を履行するかどうか確認することができ、管財人は、10日以内にこれに対して回答しなければならないものとされている。
 その他、破産手続においては、特定の契約類型の取り扱いについての特例が定められており、例えば、賃貸借契約については、賃貸人が破産した場合には賃貸借契約は終了しない一方、賃借人が破産した場合にはその管財人はいつでも賃貸借契約を解除することができるとされている。

E. 無効とされる行為
 破産手続が開始された場合、債務者によって行われた以下の行為は、債務者の経済的・財政的困窮について相手方が認識していたか否か、相手方が他の債権者を害する意図があったか否かにかかわらず、無効とされる。

  1. (ⅰ) 法定期間内に行われた弁済期限が到来していない債権の弁済
  2. (ⅱ) 法定期間内に行われた弁済期限が到来している債権の契約に定められていない方法による弁済
  3. (ⅲ) 法定期間内に行われた既存債権についての担保権の設定
  4. (ⅳ) 破産手続開始決定日から遡って2年前の日以降にした無償行為
  5. (ⅴ) 破産手続開始決定日から遡って2年前の日以降にした相続又は遺産の放棄
  6. (ⅵ) 全ての債権者の明確な同意なく、かつ、債務を弁済するのに十分な資産を残すことなく実施された事業の売却又は譲渡
  7. (ⅶ) 破産手続開始決定後に実施された物権の設定、所有権譲渡又は不動産に関する登録

 なお、上記(ⅰ)から(ⅲ)に記載されている「法定期間」は、破産手続の申立日から遡って90日を越えない範囲で、裁判所が定める期間となる。

F. 取消可能な行為(否認権)
 債権者を害することを意図して行われた行為については、管財人、債権者又は検察庁が、債務者と取引相手方との間で詐欺的通謀があること、当該行為により破産財団が実際に損害を被っていることを立証することにより、取り消すことができる。この取消権の行使は、破産手続開始決定の日から3年以内に行う必要がある。
 なお、取引相手方がさらに第三者に対して目的物を売却していた場合であっても、当該第三者(転得者)が買受け当時に債権者を害する債務者の意図を認識していた場合には、当該第三者(転得者)に対して上記の取消権を主張することができる。

(3) 債権者に対する弁済

 各債権の弁済順位を自由に定められる再生手続とは異なり、破産手続においては各債権の弁済の優先順位が明示的に定められており、管財人は、破産財団に属する資産の換価完了後、以下の順位に従って、債権者に対する弁済を行わなければならない。

  1. (ⅰ) 管財人に対する報酬並びに破産手続開始決定後に提供された労務に係る労働債権及び労災に関する債権
  2. (ⅱ) 債権者が破産財団のために支出した費用
  3. (ⅲ) 債務者の財産の換価手続その他破産手続のために支出した費用
  4. (ⅳ) 破産財団に関する裁判費用
  5. (ⅴ) 破産手続開始決定後の有効な行為に基づき発生した債務及び当該期間に係る税金
  6. (ⅵ) 破産手続開始決定前に提供された労務に係る労働債権(但し、各債権者あたり、150ヶ月分の法定最低賃金の金額を上限とする。)及び労災に関する債権
  7. (ⅶ) 担保付債権(但し、担保目的物の価額を上限とする。)
  8. (ⅷ) 租税債権(但し、租税に関する罰金を除く。)
  9. (ⅸ) 特別優先債権
  10. (ⅹ) 一般優先債権
  11. (ⅺ) 無担保債権(担保付債権のうちの担保目的物の価額を超える部分や労働債権のうちの(vi)に記載の上限額を超える部分を含む。)
  12. (ⅻ) 契約上の損害賠償債権並びに刑事法及び行政法違反に基づく罰金(租税に関する罰金を含む。)
  13. (xiii) 劣後債権

 上記のとおり、労働者が有する労働関連債権が担保付債権に優先することとなっており、この点は、日本における破産手続と大きく異なる。そのため、ブラジルの会社の債権者となろうとする者は、当該債権について担保を設定する場合であっても、債務者に未払いの労働関連債権がどの程度あるのかについて留意する必要がある。

 なお、破産手続開始決定の日前3ヵ月の期間内に弁済期限が到来した給与債権については、5ヵ月分の法定最低賃金を限度に随時弁済されることとされている。

(4) 破産手続の終了

A. 破産手続の終了
 各債権者に対する弁済が完了すると、管財人は、その後30日以内に、破産手続に関する計算書を作成し、裁判所に提出する。
 当該計算書は利害関係を有する債権者の閲覧に供され、利害関係債権者は、10日以内に当該計算書に対して異議を述べることができる。当該異議手続終了後に裁判所により計算書が確定されると、管財人は、その後10日以内に、債務者の資産の価値や債権者への弁済状況等を記載した最終報告を裁判所に提出する。当該最終報告の提出された時点で、裁判所は破産手続終了を決定し、これにより破産手続は終了する。

B. 残存債務の消滅(免責)
 破産法は、破産した債務者が新たな事業を開始することを禁止していないが、債務者の残存債務は、以下のいずれかに該当する場合に限り、債務者の申立てに基づく裁判所の決定により消滅する。

  1. (ⅰ) 債務者の全ての債務が弁済されたとき
  2. (ⅱ) 債務者の財産が全ての債務を弁済するのに足りない場合において、無担保債権のうち50%を超える金額の弁済がされたとき
  3. (ⅲ) 破産手続の終了決定がなされた日から5年間(但し、債務者が倒産法に定める犯罪により有罪判決を受けた場合においては、10年間)が経過したとき

 もっとも、実際には、債務者の全ての債務が弁済されるケースはもちろんのこと、無担保債権者に対する弁済率が50%を越えるケースもほとんどないため、通常は破産手続の終了決定がなされた日から5年間(又は10年間)が経過したときに、債務者の残存債務が消滅することになる。
 なお、残存債務消滅に係る債務者の申立てがなされた場合、当該申立ては、官報又は一般紙により公告され、債権者は、当該公告の日から30日間、かかる債務者の申立てに対して反対を申し立てることができる。

以 上

 

  1. (注) 本稿は法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法又は現地法弁護士の適切な助言を求めていただく必要があります。また、本稿記載の見解は執筆者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所又はそのクライアントの見解ではありません。


[1]    本稿の作成にあたって、ブラジルの法律事務所であるMattos Filho, Veiga Filho, Marrey Jr e Quiroga AdvogadosのAlex Hatanaka弁護士からのご協力を得たことをここに感謝申し上げる。もっとも、本稿の内容に関する責任は筆者らのみにある。

[2]     債権者委員会は、破産手続及び裁判上の再生手続において、債権者集会の決議によって設置される機関で、管財人の行為や手続の法令遵守状況の監督等を行うことをその役割としているが、実務上利用されることは多くない。

 

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