◇SH1157◇ブラジル商標制度の概要(2) 谷口 登(2017/05/15)

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ブラジル商標制度の概要(2)

西村あさひ法律事務所

弁理士 谷 口   登

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7 商標権

 商標登録により発生する商標権は、ブラジル国内における排他的権利である。商標権者は、商標権の譲渡、使用許諾、並びに登録商標の信頼性及び名声を維持するために侵害訴訟の提起等の権利行使をすることができる。

 商標権の存続期間は、登録日から10年であるが、10年ごとに半永久的に商標権の更新をすることができる。

(1) 商標権等の譲渡

 商標権者・出願人は、商標権・出願を譲渡することができる。商標権・商標出願の譲渡は、いずれもINPIに移転登録申請書を提出することにより行う。

 法律上は、移転登録申請後30日以内に登録の許否を決定しなければならないことになっているが実際には少なくとも2か月程度かかっているようである。

 譲渡の対象には、同一又は類似する関係のあるすべての商標権及び商標出願を含めなければならない。譲渡の対象に前記すべての商標権及び商標出願が含まれていない場合、譲渡の対象となっていなかった商標権が抹消登録され、商標出願は却下されてしまう点に注意が必要である。

(2) 使用許諾契約

 商標権者・出願人は、他人に使用許諾をすることが可能である。使用許諾契約の登録は第三者対抗要件であるため、その登録をしなくても契約の効力は生じる。不使用取消請求をされた場合、使用権者による使用の証拠を有効なものするために使用許諾契約の登録をする必要もない。

 ただし、ブラジル国内の使用権者がブラジル国外の商標権者にロイヤリヤルティを送金するためには、使用許諾契約の登録をしなければならない点に注意が必要である。

 使用許諾契約の登録は、出願中の商標に関しては認められず、商標登録を受けている必要がある。

 法律上は、使用許諾契約登録申請後30日以内に登録の許否を決定しなければならないことになっているが、移転登録申請と同様、実際には、少なくとも2か月程度かかっているようである。

(3) 権利行使

 商標権侵害に対しては、差止請求、損害賠償等の民事訴訟の提起、水際措置を講じること、刑事訴追をすることができる。

  1. ① 民事訴訟
     民事訴訟は、管轄の州裁判所に提起しなければならない。州裁判所の管轄は、原則として被告の所在地であるが、損害発生地の州裁判所を管轄裁判所として選択することもできる。リオデジャネイロ州の州裁判所にビジネス法専門の法廷が設立され、商標権侵害事件の審理も当該専門の法廷で行われる。また、サンパウロ州の第二審の州裁判所にもビジネス法専門の法廷が設立されている。したがって、商標権侵害を理由とする差止請求等の民事訴訟を提起する場合は、可能な限り、リオデジャネイロ州かサンパウロ州の裁判所を選択するのが良いだろう。
     ブラジルでは、訴訟手続において判決が確定するまでに長期間かかるといわれている。そのため、侵害行為を早期に停止させるために仮差止の申立等の仮処分の申立を行うことが多い。仮差止の申立をするためには、以下の事項について疎明する必要がある。

     •  商標権が存在していること
     •  商標権侵害の可能性
     •  回復困難な損害が発生する可能性

     商標権が存在していることは登録証により疎明できる。商標権侵害の可能性については、侵害品の写真、購入レシート等の他、専門家の鑑定書が疎明のための証拠となる。回復困難な損害が発生する可能性については、商標権侵害の可能性のある事実があれば、認められる可能性がある。
     なお、仮差止の申立に際しては、担保金の支払いを求められる可能性がある点にも留意する必要がある。
     

  2. ② 水際措置
     税関が職権により又は利害関係人の請求により模倣品の差押えをすることが可能である。輸入品に商標権侵害品の疑いがあれば、輸入品は一時的に税関に保管され、商標権者に通知される。この場合、商標権者は、輸入品の確認、点検等を行い、前記税関からの通知を受け取った日から10日以内に通関を認めるか差押等を求めるかの対応をする必要がある。
     輸入品が模倣品である場合は、裁判所に対して、輸入者の名称、住所の開示請求とともに、当該輸入品の差押、破棄等を求める訴訟を提起する必要がある。10日以内に何の措置を講じない場合、輸入品がたとえ模倣品であったとしても解放されてしまう点に注意が必要である。
     なお、ブラジルでは、税関登録制度はないため、輸入差止を少しでも効果的に行うためには、税関に模倣品等に関する情報を提供する必要があろう。

(4) 不使用取消請求

 商標登録から5年経過後は、継続して5年以上登録商標が不使用であることを理由に不使用取消をINPIに請求することができる。また、使用している場合であっても登録商標の識別性に変更を与える態様で使用している場合も不使用取消の理由となる。ただし、不使用について正当な理由がある場合には取消を免れることができる。

 不使用取消の請求をするためには、利害関係が必要がある。不使用取消請求がされた場合、その公告がされた日から60日以内に使用証拠を提出するか不使用について正当理由を有することの証拠を提出することができる。

 いずれの証拠も提出しない場合には、登録の取消決定がされる。また、一部の指定商品等についてのみ証明した場合、不使用につき正当理由がない限り、使用証明された商品等と同種でも類似でもない商品等(使用証明された商品等と同じサブクラスに属さない商品等)については登録の取消決定がされる。つまり、登録商標を使用していること及び不使用に関する正当理由の証明責任は商標権者にある。

 不使用取消請求の許否の決定に関しては、いずれもその決定の公告の日から60日以内に審判を請求し争うことが可能である。

(5) 無効請求

 無効請求は、行政上の無効請求と司法上の無効請求の2種類がある。

  1. ① 行政上の無効請求
     行政上の無効請求は利害関係人が登録証発行日から180日以内にINPIに行うことが可能である。また、職権により行政上の無効請求がされることもある。いずれの場合の行政上の無効請求の公告の日から60日以内に答弁書を提出する機会が商標権者に与えられる。
     無効請求の審理が終了すると、無効にすべきか否かの審決がされる。当該審決に不服があるときは、連邦裁判所に不服申立(審決取消訴訟)をすることにより争うことが可能である。
     
  2. ② 司法上の無効請求(無効訴訟)
     司法上の無効請求(無効訴訟)は利害関係人により連邦裁判所に行うことができる。司法上の無効請求の除斥期間は、悪意がある場合を除き。登録日から5年である。
     無効訴訟は、商標権侵害訴訟と併存する場合が、両者は、管轄裁判所が各々、連邦裁判所と州裁判所と異なるため、審理が併合されることはない。この場合は、無効訴訟の結論が、商標権侵害訴訟に影響を与える可能性があるため、侵害訴訟の一時停止を請求すべきである。
     なお、無効訴訟においても仮処分の申立を行うこともできる。当該仮処分の結果、商標登録の無効が認容されれば、最終的にも無効となる可能性があるため、上記侵害訴訟の一時停止の請求が認容される可能性が高まると思われる。

 

8 その他

 ブラジルには、周知・著名商標の保護についても他国とは異なる特色があるが、紙面の関係上、別途紹介することとしたい。

以上

 

  1. (注) 本稿は法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法又は現地弁護士の適切な助言を求めていただく必要があります。また、本稿記載の見解は執筆者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所又はそのクライアントの見解ではありません。

 

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